「リシディアの王」
◆ ◆
「ここは……」
ココウェルはレヴェーネ、イミアら意識のある臣下を連れ、再びこの場所へ降りてきていた。
地下牢獄から更に地下深い場所にある、王族の血によってのみ開くことのできる特別犯収容区画。
ナイセストの父ディルス・ティアルバーが収容され、ココウェルによって解放された場所。
ここには、開け放たれていない扉が他にもある。
「……頑丈ですわね。上はあの有様なのに、まったく影響が及んでいない」
「バジラノの者達に追われ、とっさに逃げる場所を考えた時――――わたしも思ったのです。単なる地続きの地下やシェルターでなく、魔術により位相を操作されたこのような空間の方がよっぽど安全なのではないかと」
そう言ったココウェルが、扉の脇に据え付けられている四角錐台型の魔石の上部に手を当て、それら三重の門をひとつひとつ解放していく。
五つ目の門を開放した時――――ココウェルの喉元に迫った刃を止めたのはイミアの物理障壁だった。
「不敬。人物くらい確認しなさい」
「!? 魔術師ちょ――――っ!!? コ――」
「……王の親衛隊です、殿下。全員無事のようです」
「……そうですね」
ココウェルに深く詫びる親衛隊の騎士の背後で。
ひざまずき臣下の礼をとるイミア、レヴェーネの前で、
「おぉ、おぉ……? これはど、どうした、ことだ」
一際豪奢な王冠が、揺れた。
「……戦いは終わりましたよ。お爺様」
「戦いが……」「終わったと?」
背の高い、体格の良い騎士達がどよめく中で、老いた小さな姿の王が――リシディア第五大国王、ケイゼン・ロド・リシディアが落ちくぼんだ目を見開いて、ココウェルへと――――つかみかかる。
「お前、お前――――何処ぞよりか、帰ってきたと思ったら、ま、まさかよ、余の、国を――――」
「陛下、そうでは――」
口を挟みかけたレヴェーネを手で制し、ココウェルがその手でほとんど同じ背丈の老王の腕に触れる。
「いいえお爺様。国は守られました――――王都を脅かす脅威は完全に取り除かれたのです」
「っ、っ――――」
今にも滞りそうな荒い呼吸を詰まらせるように鳴らし、ケイゼンがココウェルを離す。
「リシディアは守られたのですよ、お爺様。我らの臣下他、多くの勇者達の手によって」
「……おお、おお! そうか、そうか……! リシディアは守られた。我々は守りおおせた……! よくやってくれたお、王宮魔術師達よ。さあ上がれ。余を一刻も早う、玉座へ――」
「お爺様」
――一際。
一際響く声が、老王の足を止めた。
「玉座は残っています。ですが今はまだ、とても安心して座れるような状況ではありません」
「……んん?」
「重臣他、多くの志ある者達が立ち上がり、なんとかリシディアを守り抜きました。ですがその為に王城は……半壊し。けが人がけが人を治療している有様です」
「……城が? 半壊?」
「お願いですお爺様、わたしと一緒に話し合って、復旧の――」
「王壁をどうした? 王女」
「陛下お聞きくださいませ。殿下はずっとこの国を守るため――」
「いいのです魔術師長!」
イミアを制し、ココウェルが――震える瞳で、老王の感情の見えない目を見つめる。
「……王壁は再起動中です。捕らわれの身となった、わたしが、保身に走り――――命惜しさに、王壁を解いて…………賊を、中へ招き入れてしまいました、ために――」
ケイゼンが。
ココウェルの、下腹部を、思い切り、蹴りつけた。
 




