「少女達の終戦」
「……マリスタ。マリスタ、大丈夫?」
「…………」
「……座って。今は少しでも、休んだ方がいいわ。えっと――」
「私がいます」
「あ――」
神妙な顔に深い疲労をにじませるマリスタ・アルテアスをどこに座らせたものかと顔を巡らせたシャノリア・ディノバーツに、ヴィエルナ・キースが話しかける。
「キースさん……本当に無事でよかった」
「マリスタとは、私、いるので。先生、行ってください。きっと先生の力、一番必要になると思う、から」
「――ええ、そう、そうよね。ふぅっ……一番切り替えなきゃいけないのは私だ。ありがとう、キースさん。じゃあ、後をよろしくね。二人でゆっくり休んでいて」
「はい」
ヴィエルナにマリスタを任せ、負傷者を治療する数人の治癒術師へ向かっていくシャノリア。
ヴィエルナは、自分にも反応を示さないマリスタの顔を見つめた。
「……マリスタ。ケイのとこ、いく?」
「え……あ、えっと。……いいかな。今は。もう体、ちょっとも動かないし」
「わかった。あっち、いこ」
ヴィエルナに支えられるようにして、天井の残った雨にぬれない場所へと座り込む二人。
目の前では大人達が忙しなく動き、ありあわせの布や魔法であっという間に簡易ながらけが人を休ませる場所ができあがっていく。
「……ヴィエルナちゃん。勝ったんだよね。私達」
「うん」
「大貴族の責任、ちょびっとでも果たせたんだよね」
「そう思うよ。私は」
「分かんなくて」
ヴィエルナの肯定を遮るようにマリスタ。
「勝ったら……リシディアを守れたら、きっともっと達成感とか、そういうプラスな気持ちになれるんだろうなぁって思ってたの」
「……そうだね」
「でも思い出してみたら、なんか全然違くて。勝つたびに、敵の人達と話すたびに、倒すたびに……なんか、どんどん気持ちが暗くなっていっちゃってた気がして。でも負けないようにガンバって、元気出して勇気も出して、大きい声で」
「……うん」
「やっと捕まえたと思った、て――敵のボスも、こ。殺され、ちゃって。あの人、ずっと……――ずっと、私をっ、み。見てて」
「……マリスタ」
「さっきまで、ず、ずっと、私を、見下してさあ。殺そうとしてた、人なのに……わたしぃっ、」
堰を切ったように、後からあとから涙をあふれさせていくマリスタ。
ヴィエルナは眉を悲痛にゆがめ、冷えた体を寄せてマリスタを抱きしめる。
「こ、ころしたくっ゛、なんて。なかった……っ」
「うん。うん……っ」
「でもっ、やっとココウェルを、たすけられて……たすけられたと思ったのに、また、この人がっ、」
「…………私。きっと」
「この人っ……この人なんだったの? やられてもやられても、何倍も何回もやり返してきて……もうかてないんだって、もうムリなんだって、何回も思ってっ……ねえヴィエルナちゃん、」
「きっと私も。同じこと、考えてる」
「なんだったのこの人……? ケイと何を話してたの? なんでアマセケイって呼んでたの? なんでケイもこの人のことをずっと前から知ってるみたいだったの?」
「わからない。でもね、ケイは――」
「ケイはこの人たちの仲間だったの?」
「ケイは間違いなく、守ってたよ。私達、王女様。リシディアも」
「どう考えたらいいの? もうわかんない。私わかんないよ――――」
混乱と疲労の中、影の差した心で行われる暗い思考。
少女達に――否、今この場にいる生き残っているだけの者達にできたことは、ただ心身の平穏を取り戻すべく呼吸をひとつずつ、確実に重ねることだけだった。
「殿下。極度の疲労の中、無礼を承知で――」
「前口上はいりません。本題を」
「……申し訳ございません」
「……そうして顔色をうかがわせているのは、むしろ今までのわたしの振る舞いなのでしょうね。本当にごめんなさい。レヴェーネ・キース」
「は、いえそんな――」
「要件を」
「――申し上げます。殿下は本当にご存じありませんか? ケイゼン・ロド・リシディア国王陛下の居場所を」
「…………心当たりはあります。今にしてみれば、ですが」




