表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1248/1260

「讐みを、」




◆    ◆




――熱に浮かされたように希薄だった意識が急に戻ってくる。

 神経が脈動するかのような痛みが左目を貫き続けている。

 口の中を血の味が流れる。

 この血は、

       (血が、)



 くちゃり村の者達がすべて集められていた広場体格のいい男達は既に俺と同じく傷を負わされうち何人かは既に既に事切れているああベイキーサンドラハマクイッツそんな酷いこんななぜあいつらが何故そんな状況にもかかわらず騎士達はこぞって酒を飲み歌い踊り始めた一体何なんだ何が起こってるんだあいつらは間違いなく騎士なはずだ神父が間違いなく親し気に話をしていたなのになぜ神父まで捕まっている何故神父が声を荒げて親しい筈の騎士を怒鳴りつけている酔いに染まった騎士が心底煩わしそうに顔を歪めて神父に歩み寄り嫌な予感は的中するあろうことか騎士は神父の顔を蹴りつけはじめたのだ何が起こっているのか解らなかった夢を見ているのかとさえ思ったあれだけ穏やかに見えた騎士が今目の前でどこまでも神父を蹴り蹴り蹴り――――バンターの拳が



、深々と俺の鳩尾みぞおちに突き刺さった。



「ぼッッ――――ァ゛あ゛ッ……!!??」



 直後に口が血を爆裂させ、倒れる。

 バンターの荒い呼吸――それは最早もはや呼吸と言えるか疑問なほど、声を伴い――が、すぐ近くで聞こえる。



 動け。



 動かないと、殺される――



「ッァあああああああ゛あッ!!!」

「ぼ、ごぶが……!!」



 のろい動きで辛うじて体を転がし――地を踏み砕いたバンターの足を避けるそして眼前に奴の血が降ってきていることをそのとき俺はやっと認知し血が目に落ち「やめて!!!!!」悲痛な声はサニーのものだった神父の周囲の悲惨な光景騎士共はあろうことか周囲の女の服を剥ぎ取り始めたのだ何何なんだ何が起きてるんだどうどうしてこんな俺はそのときになってやっと自分の愚かすぎる勘違いに気付いたこいつらはきっと王国騎士などではなかったのだ王国のリシディアの誉れある騎士騎士きし騎士きしなのにこんなことをするはずがないそうだあり得ない国を形作る雄たちがこんな馬鹿な破滅的行為に手を染めるわけがない我々は今盗賊に襲われているのだであれば俺は俺は何故こんなところに倒れているのだ「貴様等ァァァあああッッ!!!」「あー?穴ぼこがなんか言ってんなァ?」「盗賊の外道の糞共が、今すぐにその汚い手を女性たちからどけぐあああああぁぁぁあッッ!!?」「おホー汚ったねぇ叫び声だ!!こりゃマジョの一族確定だなァ!?」「もっと鳴いてみるかァホレ、アキレス腱ぶちぃいぃいいぃぃい「ぐがああああああああああああああああああッッッ!!」ッッッあああああああァッッッ!!!!』



 俺の声。

 バンターの声。



 同じものを見ているのか。

 それともお前は()を見ているのか。



「お前も……お前もそう(・・)なんだろうがッッ!!!!」

「ゲ…がッ……やめろ、」

「殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて殺したくて堪らないから此処にいるんだろうがッッ!!!!! その怒りを悲しみを恨みを持て余してここにいるんだろうがッッッ!!!!!なのに貴様はッ」

「やめろぉぉおおッッ!!!!!!」

「こんなところで俺止めて貴様は何をやってるんだよッッッ!!!!!?」男達の下卑た笑い声どれだけ体に力を込めようと後ろ手に縛り上げられた手も足もびくとも動かない普通の縄ならどんな太さだろうと問題にならない筈なのにまさか魔装具なのかこんな一介の盗賊風情がいやしかし確かにこいつらは盗賊にしては豪華な鎧を着込んでいるあれがそもそも盗品か「誰が盗賊だって?ええェ?」「ぬぐッ……がぁァ……!!」「笑わせるぜ――このマジョにはこの俺達がコソ泥に見えるんだとよ!!」盗賊共がゲラゲラと笑う今まさに大罪を犯していながら何がそんなに可笑しい何かが俺の目の前にぶら下がった「見えるか?んん?これが何だかテメェのような下民に分かっかよ、あー?」それは二重の魔法陣の形に造られた金の章飾それを持つ者は栄えあるリシディアの騎士と認められ国民から羨望と称賛を贈られる誰しもが憧れる――――――――――――――なんで?「見ろよこのバカヅラ!!」「だははははは!」「誰が賊だと?馬鹿が、俺達はリシディア王国騎士団だ!『魔女狩り』――少しでも疑わしい奴は根こそぎ殺せという王命が発せられたのよォ!!!!」



「あああぁぁああぁぁぁぁあぁぁッッッ!!!!!!!!!」

「ぐあああああああああッッ……!!!」



 のたうちまわる。

 二人の男が、揃って目と頭を押さえて。

 俺()の心に、深く食い込んだ「痛み」の呪いが。



〝ここぞとばかりに、気に入らぬ者を殺し。ここぞとばかりに、普段できないことを全部やる。子ども(金品)と見ればことごとく奪い、男と見れば悉く殺し、女と見れば悉く犯し――そして魔女と断じて証拠隠滅(皆殺しに)する。そんなことを畜生(コクミン)すべてが行う狂乱きょうらんが、国中で起こったのさ〟


〝『王命おうめい』とは、このリシディアという国家にとって最大の形式的効力を持つ命令です――決死して軽々(かるがる)しい気持ちで連発していいものではありません。一度出した王命は冗談では済まないのです〟



 ――そんな。

 それが「王命」?



 男と見れば皆殺すのが王命?

 女と見れば皆犯すのが王命?



 そんなもの――――――復讐してもしてもしてもしてもしても、足りる訳が――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ