「Hurt,」
「ぬゥぅううううぁァアアア!!!」
バンターが仰向けに倒されたまま放つ膝蹴り。
圭はそれが届く前にバンターの顔を支点に体を曲げず前転――バンターの頭を完全に凍結した。
「ッッ――、 、 、」
「ふふ 苦し ――」
遠当てがわずかに首を逸らした圭の真横を抜け、牢獄の鉄格子を幾重も貫き吹き飛ばす。
圭は遠当てをかいくぐり、
「凍 の舞 踏 」
「ッッ!!? ぐ――」
氷山屹立。
バンターの足元から地を突き破って現れた氷の剣山が彼を貫き、裂き、裂き、裂き――――
「ぐあ、ぁ、ァ――ぁああああぁあぁぁぁああッッ!!!!!」
『ッ!!?』
立ち昇った剣山が触手のように湾曲して停止、吹き飛ばされてきたバンターがマリスタらの目の前に転がる。
「ガ、ぁグッ……ッ……!!!」
「――――、」
――皆は見上げる。
氷の触手の上に立ち、今雷鳴を背にそのシルエットと照らされた狂喜を不気味に浮かび上がらせる天瀬圭を。
「……何その目……ケイ、」
「お死まい」
バンターの前に――――その向こうにいる皆の前に、無数の宝氷剣が装填され、
「ッッ!! みんな逃げ――」
掃射。
された宝剣は、
「あはははははッ!?!? ぁ――ぎゃカ!?!?!?」
『ッ!!?』
――――――残らず、進行方向を直角に変え。
一本残らず、皆の眼前に柵のように突き刺さった。
(――――……止めて、くれた?)
マリスタの見る先で――圭は亀裂の左目を押さえて片膝を着いていた。
「はァ゛――――――はァ゛ ぁア! ぁハ
…そう なのぉ… ? 好きなのね、」
バンターの蹴りが圭の腹部に炸裂。
『!!!』
「アマセ君ッ」
「う゛ぅ゛――」
「剛蓮」
練気が圭を爆散させんと流れ込み、
同時に圭がその足にかぶりつき嗚咽を上げながら、ボロボロと泣く少年の後ろ姿を見ている。子どもは体中傷だらけだ。泥だらけの服は破れ、所々は擦り剥いて血が滲み、前歯は抜けて無くなっている。酷くみっともない姿で、ひっきりなしに吃逆を繰り返しながら――ただ純粋に、目の前に母と妹がいるとてつもない安心感に、達成感に、泣き続ける。「あんなに体の大きな高校生に飛びかかっていくなんて。あなたはまだ八才なのよ? 下手したら、もっと大きなけがだって――」「だって……メイがあぶなかったんだ」嗚咽を抑え、そう口にする少年。少年の視線は母親に寄り添い、その服の裾を握り締める妹へと向いた。少女も目に涙の痕を残し、髪には引っ張られたような乱れがある。母は床を見つめる娘の頭を撫で、陽だまりのような微笑みを少年に向けた。「……私とそっくりね。あなたはお母さんと同じ……いいえ。お母さんよりも大きい、大きい優しさを持っている。それがお母さんは、たまらなく嬉しいの。ありがとう、圭」母の手が、少年の胸に触れる。少年は涙の流れる顔で溢れんばかりの笑顔を浮かべ、誇らしげにその手を両手で覆う。そんな兄と母の様子に、安堵を覚えたのか――妹も顔を上げて笑い、兄の腕をとる。「ありがとう、けいにーちゃん」――家族が、少年の誇りだった。「うん。いいんだよ。任せて、メイ。母さん」――家族が、少年の生きる理由だった。「ずっとずっと、おれがまもるよ。父さんも母さんも、メイも!」――家族が、俺のすべてだった。「やくそくするから!」づァああぁぁぁあああぁぁあああああ!!?!?」
――膝肉を食い千切られ、気の流れを乱し。
バンターと圭は共に歪な氷の触手から落下し――圭はバンターに空中で振り解かれ、バンターは顔面の凍結をムチのような鋭い蹴りで打ち砕かれる。
圭は体から生やした触手のような氷で着地。
バンターは凍結の残る頭部から地に落下した。
「 あら もう少なぁい
まあいいわ さあ 」
圭が肉塊を吐き捨て――両手で地の氷剣を引き抜く。
「もっと 絶 望 を
舞台へ」
「見せるなと――貴様―天瀬――何度言えばァァァァァアアッッ!!!」
応酬。
氷の剣と練気まとう武闘が、魔波と血と咆哮、狂喜を吹き荒らしながらどこまでも、どこまでも――
「ぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはあ!!!?」
「ずァアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああう、ぐァ……なんでだ、なんで、なんで、ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ!?!??!???!」
氷剣が砕かれる。
鋼の肉体が裂かれる。
その度に圭は地の氷剣を引き抜き、更にバンターを追い詰め、追い詰め――
――――拮抗は、崩れ。
バンターの左胸を、圭の氷剣が貫いた。
『!!!』
「ッ……油断しないでケイッ、彼はそこからが――」
一人、比較的傷の浅いココウェルの声。
圭はビクリと硬直したバンターの前で嗤い、流れるような動きでもう一剣をバンターの首に奔らせる。
「なんで……お前が俺を止められるんだ?」
奔らせた氷剣が、首に負け砕けた。
 




