「バケモノ」
聞き慣れない耳障りな声が、鼓膜を震わせる。ニット帽の女だ――――だから誰なんだお前は。
少女は吐瀉物を見るように頬を歪ませ、口を引き結んだ。
「同じ人間であることだけは信じて言うんですが。貴方、ちゃんとマリスタやシャノリア先生が自分と同じ人間に見えてますか?」
「誰だお前は?」
「名乗る気すら起きませんよ。どこまでいっても損益でしか人を見ることが出来ない破綻者などに」
「ちょ……ナタリー?」
「誰なんだと聞いてるんだが」
「け、ケイもちょっと待ってってば」
「貴方、人を自分に都合の良い駒か何かと勘違いしていませんか? トルト先生もキースさんもシャノリア先生も、マリスタだって、『全自動オレを強くするマシーン』じゃないんですよ?」
「……………………」
……ダメだな、この手合いは。人の話を一切聞こうとしない。関わるだけ――
「シャットアウトしましたね今、私を。関わるだけ無駄だとでもお思いになりました?」
――!?
「何ですその顔は。造作もありませんよ、あなたみたいな壊れ者が何を考えてるのか推測するくらい。そんな一方的な意思疎通に付き合う者の身になって考えたことが、あなた一瞬でもありますか?」
「ナタリー、もういいから」
「人がモノにしか見えないそのフィルターを一旦外しなさい自己中野郎。そうすれば少しは、私の罵倒が耳に入ることでしょう。――私はですね。今、貴方という人間が不快で不快で仕方ないのですよ、ケイ・アマセさん。誰も言って差し上げられないようなので代弁しているまでですが」
「……………………」
――随分と嫌われたものだ。慣れてしまったが。
ああ、くそ。体が動けば、さっさとこの場から消えてやるのに。
「そ、そこまで言わなくてもいいのよ、コーミレイさん。ケイは事情が事情だし、人と違って魔法にも慣れていないわ。きっと焦ってるのよ」
「随分と好かれているようですね。一体どうやって何人もの女性を誑し込んでいるのかなんて知りませんし知りたくもないですけど」
「ナタリーもうやめてってば」
「こんな風に言ってくれる方々の好意に甘えに甘えて、今の貴方があるような気がしてならないんですが、私。――いえ、もっと正確に言い直しましょうか? 貴方はこうして人がよかれと思って向けてくれる好意を全て自分に利するものとして利用しかしていない。まるで人を養分とする寄生虫……私は、貴方のその在り方が恐ろしいのです。貴方という破綻の存在が、私の友人に不幸を呼ぶのではないかと気が気ではありません」
〝――私、君が測れなくて、怖い〟




