「昂留――――その背中を押したのは」
――――その拳から何かが飛ぶ。
ヴィエルナを除くファレンガスら三人は、残らずその透明な「何か」に貫かれ――――ファレンガスの喀血と共に吹き飛び、城壁をあっさりと突き破って爆裂、雨の闇へと吹き飛んでいった。
空圧のような――しかし気の塊をぶつける技、「遠当て」。
あれであいつはフェイリー・レットラッシュの技を破り、彼をただの肉片に変えた――――
「でぃぁぁあああア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッッぅぇあ」
「か、ふっ……くぁああッ――――」
イミアが口から幾筋も血を垂らしながら両手に闇を収束させ、放った闇をバンターが手で押し留めイミアに食らわせた。
バンターが闇をイミアに食らわせた。
「――――し、まッ……」
尖がり帽子が闇に溶け滅す。
イミアの両手から放たれ切る前にバンターの両手によって掴まれた闇。
バンターは両腕を焼く首根断つ魔宴を真っ直ぐ一点、イミアの顔面にすべて収束させたのだ。
そしてバンターが両腕を腰元に引き付け、
『魔術師『イミア様』長ォォッッ!!!』
――文字通り「肉壁」となった王宮魔術師らとペルド、イミアを、双腕から放たれた「遠当て」が貫通、城の外へと吹き飛ばした。
「………………………………」
――その間。
俺にできたのは、どの戦闘にも加勢しようと身動ぎすることだけだった。
俺が行動を起こそうと体に信号を送った時には、加勢しても仕方が無いほどに戦況が傾いてしまう。
誰一人援護できず、皆ガイツと同じく城外へ吹き飛ばされていった。
気付けばもう、城内で立っているのは。
「……光食い人が効かない。この人はもう、目で世界をほとんど捉えてない……!!」
「……っ」
なんとか「遠当て」を逃れたヴィエルナと、それを支えるリリスティア。
「・・・・・・・」
「……殿下。どうか気を確かに」
「…………」
ココウェルを守る様に立つシャノリアと、もはや気力で立っているだけのマリスタ。
そして俺。
たった六人。
敵は、たった一人。
「…………」
俺達の疲労を見て取ったか、シャノリアがマリスタの、バンターの前へ出る。
マリスタは手をシャノリアの肩に置き制止、しかしその動きで膝が崩れ落ち、シャノリアに寄りかかるようにして地に膝を着く。
――――違う。
シャノリアも疲労している。
バジラノとの戦闘も経ている。
そしてこれまでどれだけの人間を治療した?
底を尽いていないにしろ、消費した魔力が相当量であることは解り切ってるじゃないか。
だというのに、何故お前は前に出ないんだ?
〝バンター〟
〝けいにーちゃん〟
――――怖いのか、あれが。
バンターが怖いのはもう知っている。
死の恐怖も味わった。
実力がかけにかけ離れた「本物」と戦うのが怖いのも知った。
だがそれらは俺の望むところでもある。
だから己を己で奮い立たせるだけで片は付く。
でも、あれは違う。
あんなものを見せられては堪らない。
あんなものを、
〝ぼくは、かぞくをっ、――――いもうとを守ることさえできないッッ――――!〟
見せられたら、俺は戦えないだけでなく――――
「失望したぞ。ケイ・アマセ」
「づガッっ!!?」
『!!!』
――――稲妻のような闇が、呼吸を整えていたバンターの首根に直撃する。
瓦礫の暗闇から這い出てきたのは、星を纏った男。
それがアルクスのローブであることに気付いたのは――特徴的な髪から、そいつが誰なのかを識別できた時。
――自然と。
自然と背筋が伸びるような、体幹に力がこもるような――頬の肉が持ち上がって目が細まったような、そんな気がした。
「……『呪い』か?」
「!」
「俺と向かい合っていた時の貴様の方が、よっぽど強かったぞ」
「……ハ。俺を弱くした張本人が何言ってやがる」
「そうか。なら俺に従え」
「あ?」
「貴様の専売特許だろう。手持ちの猿知恵で立ち回るのは」
「…………フツーに言えよ」
「俺が奴を倒す」
――挑発に、背中を押され。
ナイセスト・ティアルバーと、並び立つ。
「援護してみせろ。ケイ・アマセ」
「――倒してみせろ、ナイセスト・ティアルバー!」




