「五月蠅意――――『希望』の記憶」
「ァ゛ァ゛――――ッッッ」
「ぐあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ァァァアアアアア!!!」
――――離せ。
離してくれ。
五月蠅いだと?
五月蠅いのはどっちだ。
俺の頭の中でガンガンガンガン喧しいのは誰だ。
俺に全く関係の無い奴らに――――俺に深い愛情を抱かせようとしているのは誰だ。
お前だ。
「貴様ァア――」
「お前だろうがッッ!!!!!」
俺を組み伏せる腹を蹴り飛ばす。
さっきまでの剛力が嘘のようにバンターが吹き飛ぶ。
脳が、
雑巾のようにしぼられるような痛みが、
どんな痛みだ?
する。
「アマセ……? おめぇ、何言って……」
「ケイ……?」
「ハァ……ハァア……!!!」
――勘弁しろ。
勘弁しろよ。
俺は俺のことで精一杯なんだ。
なんで俺が――――なんで俺にこんなものを見せる?
なんで俺を、こんなもので苦しめる?
口を衝きかけた言葉。
それを止めたのは、足元の床を拳で砕いたバンターだった。
「知るか……知ったことかッッ!!」
「…………何?」
「貴サマ――貴様等――貴様の妹のことなどッッ、俺が知ったことではないだろうがッッッ!!!!」
「――!!」
「なんで俺が……なんで俺にッッ、」
「……馬鹿言え、」
「見せるな……こんなものを俺に理解らせるなァァァアアアアッッッ!!!!」
「こっちの台詞なんだよッッ!!!!」
「ッ――!!?」
「……な、何?」
「なん――何を話してんだ、こいつら――」
「何を呆けてますの皆ッッ!!」
イミアの闇魔法がバンターを撃つ。
バンターがそれを避ける。
「気狂い共の妄言に付き合っている暇はありません――――今この時を逃していつこの男を討つのですッ!!」
「――その通りだ。手を休めるな、畳み掛けろッ!」
「奴は動きを鈍らせている! もう一押し――もう一押し押し続けるんだッ!!」
アティラスともう一人の魔術師の檄に戦闘が再開される。
俺も立ち上がり――――左目に手を当て、閉じる度左目蓋に浮かぶ回顧録から意識を必死で逸らしながら、知っている攻撃魔法をただただ思いつくままに詠唱していく。
〝けいにーちゃん〟
――俺だって知られたくない。
知られてえ訳ねえだろうが。
お前が生きているのが悪い。
立っているのが悪いんだ、バンター。
大体おかしいだろうが。
あれだけのアルクスを相手にして。
トルトにそこまでボコボコにされて。
イミア達に何十発も上級魔法を撃ち込まれておいて。
その他大勢に散々痛めつけられておいて。
なんでお前はまだ立ってるんだ。
その体力はどこから来てるんだ。
その力はどこから湧いてくるんだ。
「根性」一つで、それほどまでに人は最強になれるというのか?
「がッッ――!!!ァ、ァァ――――!!!」
――――我に帰り、前を見る。
眼前の空で、転移の弾丸を放つ魔術師が――その腹を深々と、蹴り込まれていた。




