「痛矛――――破壊されたテーブル」
マリスタは声も出ない程疲労した体に鞭打ってココウェルに這い寄り――――垂れ下げられたココウェルの手を、握った。
「…………」
「……――、」
――ココウェルが、マリスタの手をしっかりと握り返し。
決然とした目で――震える唇で、バンターに向き直る。
「…………わたしは、未だ何の力も無い非力な子どもに過ぎません。でも少しだけ、理解できたこともあります。この国が持っている力、志ある方々が示してくれた可能性……そしてこの国が背負い、償わなければならない罪についてです」
バンターは応えず、ただただリシディアを滅ぼさんと歩み続ける。
いつ眼前に現れるかも分からない相手を前に、シャノリアとサイファスが身構えているのが見て取れる。
「……死ぬべきであるなら死にましょう」
『!!!!?』
「で――殿下ッ!!」
「ですがその前に――――命を取り合う前にどうか、わたしに貴方の想いを聴かせて欲しいのです。貴方の苦しみを、悲しみを、憎しみをどうすれば少しでも軽くしてあげられるのか、わたしには解りません。でも――でもきっと今からでも、話をす――――」
ココウェルの横を闇が飛び。
それを顔面で受けたバンターが、僅か一秒歩みを止めた。
「――――誰が、」
「……やっぱり効くには効いてますわね。特に闇の魔法は」
「魔法とは異なる体系の力を持っているとはいえ……不活性化による影響は多少なりともあるわけですね」
「だったら勝てます。攻撃し続ければ、いずれこいつを殺せます……!」
イミアが。
アティラスが。
もう一人、俺の知らない魔術師が――――ココウェルを守るようにバンターの前へと歩み出る。
「魔術師長ッ、キース兄弟!!」
「お言葉ですが殿下。……さすがにそれは、賛同しかねますわ」
「え――」
「辛辣な物言いになって申し訳ありませんが、殿下――非力に自覚があるなら下がっていてください」
「――――」
「兄の言う通りです、殿下――もはや貴女が出る幕ではない。あれと我々はもう、殺し合うしかないのですから」
「――そうです。王女様」
ここにいない者の声。
俺の背後から、ヴィエルナの――大勢の足音が、聞こえてくる。
「その通り。これは戦いだ、王女様。闘いじゃねえ――胸糞悪りィ話だがな」
「文字通りの『問答無用』。彼の内情を知る必要も、一対一にこだわる必要もありません。殿下」
「……もう遅いのです、殿下。着くことができるテーブルは……もう、とっくの昔に破壊されている」
「その偏見がこの戦いを生んだのではないのですかッ!!!!」
ヴィエルナ、ファレンガス、アドリー、ペルド――全員が、ココウェルの訴えを無視する。
反応したのは、たった一人だけ。
「…………
……呪くなよ?」
「……え?」
地を這うような低く小さな声に、誰しもが血濡れの褐色を見た。
「……諦め この戦い 生んだ
が を だと?」
「……!?」
「呪くな……呪くな呪くなほざくなほざくなほざくなァァァアアアッッッ!!!!」
「ッ!!」
「この期に及んで――この期に及んでェッッ!!! 貴様等、貴様等はァッッ、まだ外に責任をなすりつけるかァアッッ!!!!!」
「!!――そ、違、そんなつもりで言ったのでは――」
「この戦いが生まれた理由など一つしか無いッッッッお前!!!!!!!!!!!!!!!! お前だよお前お前おまえたちリシディアがァアッッッ――今尚この地上に存在しているッッからだァァアァアアァアァアァアァ!!!!!!!!!」
「その言葉――――そっくりそのまま返してあげますわッッ!!!」
「最後の戦いだ――殺れッッ!!! リシディアを守れえええッ!!!」
おぉぉおおおおおおぉぉぉおおおぉおおおおおおお!!!!!!!!




