「そう柔くない、触り心地は考えない」
◆ ◆
目に刺さるフラッシュが、朧だった意識を覚醒させた。
「こら、コーミレイさん! 病人を撮らないのっ」
「あやや、これはすみません先生。ですが、自業自得だと思いますけどねぇ。過労で死にかけるなんて、まったくお似合いの末路じゃないですか」
「ナタリー!」
「あややマリスタまで。そんなに怒ることですか?」
「ホントもう、人によって態度がガラッと違うんだから……ケイ、大丈夫?」
俺を覗き込むマリスタとシャノリア。
と……誰だ、このニット帽の奴は。まったく記憶に無い。
というか、シャノリアの顔がやけに近くに――
――――って。
「わっ?! ちょ、ちょっとケイ、急に動かないのっ」
「お、おいお前っ……なんで人を膝に乗っけてるんだ子どもじゃあるまいし!」
「へっ?! だ、だって床だとカタいし、体の様子を見るのにはこの姿勢が一番――、」
「やかましいっ、とっととどけ……っ!?」
――起こそうとした体に力が入らず、グラリと床に傾く。
シャノリアにわたわた抱き直され、顔面から床に激突するのは避けられた。
「これは……」
「まったく……不本意かもしれないけど、今はじっとしてなさい。あなた本当に、あと少しで死ぬところだったんだから」
「……魔力切れでか」
「そう。ってあなた、解ってたのにあんなことしたの? 心配してたこっちの身にもなってよね、もう」
シャノリアが溜息を吐き、再び俺を自身の膝へと導く。
硬いんだか柔らかいんだかよく解らない感触が、再び後頭部を襲った。……床より柔らかいのは、確かだが。
「……俺は一体、どのくらいこうしてあんたの膝に厄介になってるんだ」
「厄介って……えっと、どのくらいだっけ。マリスタ」
「さあどうですかね。十分くらいじゃないですかね」
「……お前、なんで怒ってるんだ?」
「べ、別に怒っては、ないけど?」
「先生と取り合いっこ、してたよ。ひざまくら」
「ヴィエルナちゃんそういうこと言うのやめて?!?! 割と真面目にやめて?!??!」
視界に、戦う前とまったく変わらない様子のヴィエルナがひょこりと現れる。
こいつまだ居たのか。さっさと帰っていてくれればいいものを。
……というか、なぜマリスタ達もここにいるんだ。
「そういえばお前達、どうしてここに……」
「えっ?? あー、それはその」
「なんというかね?」
「文脈考えたら分かり切ってるじゃないですか、お頭大丈夫ですかー。というか、こうなったら隠すことでもありませんし」
「……見ていた?」
まるっきり興味がなさそうに、手元の手帳を確認しながらそう言うニット帽の少女。
俺がマリスタとシャノリアを睨むと、二人は揃ってバツの悪そうな笑みを浮かべた。こいつら。
……ということは、倒れる間際、声をかけてくれたのはこいつらの中の誰かか。恐らくシャノリアだろう。マリスタがこの魔法を知っているとは思えない。
改めて、体に意識を集中する。……やはりというか。体内では、魔力回路が未だ熱を持ち、空焚きされたフライパンのように熱を持っているようだった。
まだ当分、体は動かせそうにない。
ここまで魔力切れに精神を持っていかれたのは初めてだ……よくよく気を付けなければ。こうも動けないと鍛錬や日常生活に支障をきたす。
そしてあの魔法は、これ程に魔力を吸っていくのか。




