「誰かの『大切』のなかで」
「……え……終わった、の?」
リリスティアがどこか拍子抜けしたように言う。
背を向けたまま答えたのはココウェルだった。
「……ええ。これできっと、本当に」
「……ディノバーツ先生が気になる。私達も急ぐぞ」
妙な余韻を、燻る怒りを振り切るようにペトラ。
俺達が大広間へと戻る前に、シャノリアは廊下を駆けてきた。
「無事だったか、ディノバーツ先――」
「一つだけ、ペトラ。……本当に彼らを逃がすと約束したの?」
「…………私じゃない」
「…………そう」
シャノリアは万事を察したようにココウェルを一瞥し、胸元で握っていた手を振るようにして下げる。
恐らく魔法か何かで奴らを追尾させていたんだろう。
「……お前も、奴らを仲間を逃がしたのか。シャノリア」
「……それが敵との約束なら、選択肢はなかったんだろうけど……でも、きっとそれが正しいんだと信じたいわ。なんであれ命が助かることは喜ばしいことだもの」
「こんなにも私から奪った奴の命でもか?」
「……」
大広間に出る。
生き永らえた幾人かの中で事切れる、いくつものアルクス・学生らの死体が転がっている。
知り合いを探して目が泳ぎかけるのを必死で堪えた。
「……休むべきだわ、ペトラ。今だけは、ほんの少しだけ」
「……少しだけ指揮を頼む。けが人の治療を」
「ええ」
力無く垂らされた手から大剣が消え、軽そうな杖を手の中でぶらぶらとさせながら、ペトラが斃れている一人へと歩み寄っていく。
他の戦況は、どうなっただろうか。
「……殿下。殿下も休まれた方が――」
「いいえ。手伝います――けが人をどこへ集めればいいですか?」
「……ありがとうございます。ここに――医務室のような場所はございますか?」
「医療分野が専門の王宮魔術師が詰めていた部屋があります。そこなら場所も広い」
「ではそこへ。ケイと、キスキルさんも手伝って。ケガしてる人たちを」
「解った」
「了解です」
……改めて周囲を見回す。
倒れた人、流れている血。
壊れた命。
〝アルクスのイフィ・ハイマー。こっちはゼイン・パーカーよ〟
この中に、どれほどペトラの「大切な人」がいたのだろう。
〝こいつらは既に何人もの――我々の――――ガイツ達だって!!!〟
〝ペトラッ!!!〟
――なぜ非難した。
単純な話だ。
これだけの大量殺人を犯した人間は、戦いなどとは縁遠い俺の世界でさえ即死刑に決まっている。
なぜ非難した。
どの口が非難した。
お前の復讐に比べるまでも無い、あまりにも真っ当な仇討ちじゃないか。
俺はあの時、一体何を考えて――
「ありがとうね。アマセ君」
「!」
傍らを見る。
俺と同じく怪我人を抱えたリリスティアだった。
〝ありがとう、けいにーちゃん〟
「……何の話だ?」
「私達を助けてくれたことと、兵士長を止めてくれたこと」
「礼を言われるようなことじゃない」
「ダメだよね。憎しみで人を殺したら」
「!!……?」




