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「誰何微笑」

「……?」



 二十年前(・・・・)の……バジラノとアッカスの連合軍?



 二十年前と言えば「無限の内乱」だ。

 確かにそのとき、アッカスとバジラノは内乱で国力のおとろえたリシディアに侵攻して、返り討ちにあっていたはず

 だがその原因は――



 ココウェルは怪訝けげんな顔を呆れへ変え、やがて溜息ためいきいた。



「……もしかして。貴女達が探していたのは、そんな『魔法のようなもの』だったのですか?」

「あー、隠してるぅ?」

「何度も言わせないでください。そんな空想じみたもの、このリシディアのどこを探しても、見つからないと思いますよ」

「………そっかぁ。そうだよねー」

「………………一つ教えたのです。わたしにも一つ問わせてください」



 よくわからない沈黙の後、ココウェルが女に質問を返す。



「リシディアでは、確か二十年前のアッカス・バジラノ連合軍壊滅は……バジラノが用意した新兵器の誤爆による自滅、となっていましたが」

「…………へ?」

「確かなのですか? バジラノではあの『事故』は……リシディアで作られた、その『大量破壊兵器』とやらが引き起こしたことになっているのですか?」

「…………どういうこと? それ」



 ……再びよく解らない沈黙。



「大量破壊兵器」……それは俺のいた世界でもたまに耳にした言葉だ。



 だが二十年前のアッカス・バジラノ連合軍壊滅の際に起こった「爆発」は……確か今バジラノとリシディアの本隊が戦っている国境戦、そこからリシディアの国土一割を焦土しょうどと化させた程の威力を持ったとんでもないものだったはずだ。

 故に以後、リシディアは王都と王城周りの防衛を強化し、「王壁おうへき」という最強の守りさえ作り出すこととなった、と本で読んだことがある。



「大量破壊兵器」などというものが存在するとしたら、それは軍事国家として世に聞こえるバジラノ以外に無いだろうに。



 だが、こいつらはそれを得るため――――クーデターの戦局さえ二の次に、城の中を駆け巡っていた?

 恐らくは、そのを知っているであろう王を探して?



「…………確信が、あったのですか? このリシディアに、そんな魔法のような兵器があると?」

「…………あは」

「え……」

「あはは、ははっ。ふあははっ……」



 沈黙に笑いを重ねる女。

 だがその声はどこか、先より小さく力無く聞こえた気がした。



「……夢、だったのかにゃあ。所詮しょせんは」

「え――」

「……はーぁ。帰ろう、アサド。私達の国へ」

『…………はい』

「あ、ちょっと――まだ答えをもらっていません!」

「あ、オンカ聞こえる? 撤収てっしゅう撤収。私達の負け。……あーもう、いいからいいから。無傷じゃないのあんただけだっての。うん、なんとか助かりそう。うん、例のポイントで落ち合うよ」

「……」

「貴様等、殿下を愚弄ぐろうするのもいい加減に――」

「いいのです、兵士長。……任せてください」

「で、殿下?」

「質問を変えますっ――――貴女は誰ですか(・・・・・・・)?」

「――――――」



 通信を終えたらしき女が止まる。

 何事かとアサドが女を見る。

 肩越しにココウェルを見た彼女の仮面がまたわずかに割れ落ち、



「……ほんとびっくり。こんな子が今まで埋もれてたなんて」



 その薄い唇が、桃色の目と共に柔らかな笑みを作った。



 ……ココウェルは女の名が何かではなく、彼女が何者であるかと問うた。

 その意味を、俺は理解することができなかったが――



「…………」



 きっと何かを意図していたであろう王女は、去り行くくせっ毛の背が消えるまで、ずっと見つめていた。


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