「死体の山で頭を垂れる」
「知らないとでも思っているのですか? 貴女達の国バジラノはリシディア建国の折、五大貴族の勢いにより劣勢だったアッカス帝国によって建国させられた、傀儡緩衝国。以後、さも独立国であるかのような振る舞いをさせられながら、その実アッカスの属国であり続けている。貴女達が攻めてきたということは当然、宗主国であるアッカス帝国もリシディア侵攻に乗り出すはずです――また多くの血が流れることは既に決まっている!」
「…………」
「私情? 流血を嘆き、少しでも不要な戦いを避けようとすることの何が私情だというんですか? これは人間として当たり前の良心です! いかに敵であろうと誰も傷付かないに越したことなどないではありませんか――命に取り返しはつかないんだからッ! 解らないと思っているのですかッッ!!!」
「そう!!!!!」
ココウェルに呼応するように、女が吠えた。
「リシディアという国に、その王家に残っているものは耄碌し玉座にしがみつくだけの王と贅の限りを尽くし肥え続けている豚姫だけ。国を真に下支えする忠臣たちがいなくなればもう国の有事に立ち上がる有志は一人もいない、いるはずがないっ! …………そう勘違いしたとき。私はもう、負けてたってことなのね」
「…………え?」
「知らなかったにゃあ……斜陽の国と呼ばれてたリシディアに、こんなに力強い王女ちゃんが箱詰めされてたなんて」
……先の狂喜が嘘のように、女が鎮火する。
『…………』
「解ってるよ、アサド。仕事ほっぽり出して駆け付けてくれたんでしょ、オンカに呼ばれて。ホント、あの世話焼きババア――――王女ちゃん、」
「……はい」
「人質交換、もう一つ条件。私達が姿をくらますまで、追撃してこないで」
「ふざけてるのか――!!!」
「ふざけてないよぉ。こっちの手札は一国の姫、そっちの手札はそのへんの女ぞ? こっちが有利なのに折れてあげようって言ってるんだから、聞き分けてよぉ」
「ばかばかしい!!」
「いいえ。飲みましょう、その条件を」
「殿下ッ!!」
「お願いします。ボルテール兵士長」
「ッッ……!!!!!ッ!」
「…………3・2・」
「!!」
「いーち、」
「ぜろっ!」という声と共に。
アサドの手からココウェルが、そしてペトラの手から女が解放される。
俺も倣い、凍結をすぐに解除した。
「ッ……!!!」
「王女ちゃん。その狂犬、ちゃんと抑えといてよ」
「お願いです、兵士長。どうか堪えてください……どうかっ」
「~~~~~っ……」
ペトラの苦渋を知ってか知らずか、女はゆっくりとした足取りでアサドへと歩み寄る。
いつの間に拾っていたのか、アサドが女の欠けた仮面を差し出し、女はおもむろに髪をかき上げてそれを装着する。
「…………もののついでにさぁ。ちょびっとだけ教えてくんない?」
「え……わたしですか?」
「うん、」
振り返る。
女は相変わらず、桃色に光る獣のような強さを宿らせた片目を仮面の破損部からのぞかせながら、
「二十年前、うちとアッカスの連合軍を壊滅させてくれちゃった『大量破壊兵器』。リシディアってアレまだ使えるの?」
「………………え?」




