「『君よ死ぬな』と乞い願い、」
「いいじゃんいいじゃん、じゃやってやろーじゃん!? ふふあはっ、案外馬鹿な女だねぇアルクスの兵士長ちゃん! 大切な箱入り王女ちゃんにはまだこっちがナイフを突きつけてるってのに!」
「その前に私がお前の首を落とすッ!」
「やめろ、落ち着けペトラッ!!」
「兵士長ッ!」
「あははは言う言う! いいよいいよ、そういうのキラいじゃない。殺し殺されこの場所を私達の血で染めてやろう! どうせここで死ぬならそれも全然アリアリアリっ!! さぁ~て、誰が最後まで立ってるのかなぁ、誰も立ってないと思うけどな私は~~!!!」
「もう沢山ですッッ!!!!」
『!!』
――張り裂けんばかりの声。
誰もが制止した一瞬の中、声の主の首筋に食い込んだナイフが赤い血を垂らす。
ココウェルは、獣の目をした女に憐れみの視線を向ける。
「――交渉を受けます。兵士長、その女性を解放しなさい。彼らを逃がすのです」
『!!?』
「な――!? 何を仰いッ」
「無論、わたしとの人質交換です。……応じていただけますよね?」
「……!?」
……ココウェルが、己にナイフを突きつけるアサドと呼ばれた仮面の黒装束に目を向ける。
アサドはその言葉に――
『解った。応じる』
『!!?』
――一も二も無く、応じただと?
「…………アサドぉ~」
「……貴女には聞こえましたか」
「うん? 何が?」
「わたしにははっきりと聞こえました。仮面の下でつぶやかれた『やめてください』という声が」
「……えー? あっやしいなぁ」
「貴女が叫ぶたび、この人の体には力がこもった。ナイフが小さく震えていた。あなたを失うかもしれないと恐怖していた」
「カッコつけちゃってぇ、ただの震えとかでそんなの分かんない――」
「解ります」
〝――――申し訳ございません、殿下。そのような労しきお姿を衆目に晒させてしまい、申し訳ございません……〟
「――いかなわたしとて、解ることはあるのです」
「――……」
「……戦場をひとり歩き、多くの倒れている人を見ました。流れている血を見ました。沢山の命が消えました。……もう沢山です。流れず済む血があるならもう、わたしは誰にも傷付いて欲しくない!」
「しかし逃がす手などありませんよ殿下ッ!! こいつらを捕らえなければまた必ず……それにっ、こいつらは既に何人もの――我々の――――ガイツ達だって!!!」
「ペトラッ!!!」
――大きな声が出た。
しかしペトラは肩を怒らせ、ナイフをより強くきつく握り締めていく。
「…………そうです。今の貴女のように、血が流れれば憎しみが増える。復讐の連鎖が始まる。そんなものが生まれる瞬間を、わたしは見たくありません」
「ちょー私情だにゃ~、そんなことじゃ一国の――」
「これからも血は流れ続けるというのにッッ!!!」
『!?』
ココウェルが眉根にこれでもかと力を込めながら、目の端を吊り上げて軽口の女を睨み付ける。




