「バジラノン、笑う」
「直接聞けばいい。……存外気付いてないだけで、ちゃんとお前が知っているものかもしれんぞ」
「こいつらはお前を殺せない、ココウェル。王ケイゼンが見つからず――いかに出涸らしであろうと、いかにお前が『知らない』と言おうと、同じ王族である王女ココウェルに賭けるしかない、こいつらにはな」
一瞬言葉を切り、仮面の黒装束に向き直る。
相手に口を開かれる前に、続ける。
「さあどうする。いや――どうしてやろうか? あんたらと違って、俺達には人質を生かしておく価値が無い。まだ少しでも、故郷の空気を吸いたいと願っているなら――お前達のとるべき道は一つだと思うがな?」
「……殿下を開放して投降しろ。お前達を拘束する。この場で殺しはしない」
俺の危惧を察したのか、ペトラが次いで畳み掛ける。
嫌な静寂だけが、場に残った。
「………………」
〝――――殺してしまうぞ。私から王女の騎士まで奪えば〟
……「分の悪い賭け」だと。
負けはせずとも勝てはしないと、言ったのも。
この交渉は――こいつらが素直に乗ってくれることを前提にしているからだ。
守る価値の無くなったココウェルをあっさり嬲り殺そうとしたアヤメのように、こいつらが我が身可愛さ・或いは自棄を起こして交渉を放棄してしまえばそれまで。
王族を人質に取られているこちらは一気に絶体絶命ということになる。
気付くな。
さっさとココウェルを開放して、どこへなりと消え失せて――――
「…………………………うふ」
『!』
「うふふふ、あはっ――――ははははははっ」
喉にナイフを、押し当てられながら。
癖のあるロングヘアの女が、髪の向こうで笑い始めた。
「はははははっ……――飲まれてんぞ、アサド」
『ッ!?』
『!!?』
「あはは、あは、うふふはっ……やあ見事だねぇイケメン君? 言葉だけでここまでやり込められたあいつを見たのは久しぶりだ。でも――ちょっち勢いに乗せ過ぎじゃないかにゃ~?」
「……!」
……開き直った、のか?
いやそれよりも、こいつ――!
「そんな力いっぱい脅しちゃってぇ、もし私達が金のためにバジラノから雇われただけだったらどうすんの? 王女だろうが雇い主だろうが関係ない、このまま人質にしてまんまと逃げちまお~とかなるかもーって、君くらい頭いいなら考えられなかったのかにゃあ?」
「……お前……!」
「てか、それで済めばまだマシな方かぁ。ふふ、私達がもし、玉砕覚悟の狂信的愛国者だったりしたら……もう目も当てられない。王女はこの場で殺されるかも、お城だって自爆したりして木っ端みじんにしちゃうかも~~?」
「戯言はよせテロリスト共」
頭が回らないうちに、ペトラが静かに口を開く。
「時間を稼いでいるつもりだろうが無駄なことだぞ。お前達が勝敗関係なくテロを隠れ蓑に動いていたのは、今のアマセの推測を聞けばあまりにあからさまだ」
「推測? 憶測って言うんじゃないの?? 証拠ないんだけどな~」
「貴様の開き直りがそれを裏付けてるんだよ。馬鹿が」
「……ふ~ん? そう見える?」
「その軽口を閉じろバジラノ人。もう負けたんだよ、貴様等はな!!」
「うふ――あは、あははは!! っすごいねぇ。もう勝ったつもりってことなんだ?」
うねった髪の向こうから。
獣じみた輝きを持つ片目が、ペトラを射抜く。
だがもっと驚いたのは――ペトラがその目を決然と睨み返したことだ。
気付かなかった、ペトラの奴まさか――!!




