「意志の裏打ち」
「あの『音速』。どうやってやるんだ?」
「……え?」
毒気を抜かれたような顔のヴィエルナ。
「『音速』を使うお前をみた時、足の裏に魔力が集中しているのが解った。思うに、あれは英雄の鎧のような、魔力を用いた技の一種なんじゃないのか? もしそうなら、俺にやり方を教えてくれ」
「音速……ああ。瞬転の、こと?」
「ラピドと言うのか? ああそうだ、お前が俺にやたら強いパンチを打ってきたときの高速移動術だよ。もしかして、あれはお前固有の魔法……つまり、魔術というやつなのか?」
「ち……違う。あれ、義勇兵コースの人なら、大体使える、移動術」
「基本の類かよ……読んだ本には載ってなかったがな。まあいい。それを俺に教えろ。不躾に勝負を挑んでおいて負けたんだ、迷惑料としては妥当な――――」
ごぼ、と。
ダムが決壊するように、俺は血を吐き落とした。
「!?」
「ぁ――な、ぁが、」
吐血を認識すると共にやってくる虚脱感。眩暈、息切れ、動悸。たまらず膝を折り、吐き出した血に吸い寄せられるようにして顔を俯かせる。
血は止まらない。
再び口から噴き出した血が飛び、或いは顔を伝い、床に血痕を広げていく。
こうして確認する限り、外傷はない。となれば、原因は――――
「彼女の捕縛を解きなさい、ケイッッ!!」
――誰かの声とほぼ同時に、魔法陣への魔力を遮断する。
効力を失った魔法陣はみるみる光を減じ、何かが弾けるような高い音と共に、眼前の黒髪の少女が拘束から解放されるのが見えた。
俺が見たのは、そこまで。
痛みさえ感じる倦怠感、体の重みに屈し。
俺の意識は、闇へと消えた。
◆ ◆
ごめんな、愛依。
〝どうしたの〟
弱い兄ちゃんで。
お前を守ってやることが出来なくて、ホントにごめん。
〝そんなことないよ〟
そんなことあるよ。
だから兄ちゃんな。この先の命はお前や母さん、父さんのために使うって決めたんだ。
〝……私は、お兄ちゃんに自分のために生きて欲しいな〟
ありがとう、愛依。でもごめん、それは出来ないんだ。
お前達さえ守れなかった兄ちゃんが、兄ちゃんだけが生きてく資格はないから。
〝……お兄ちゃん〟
だからそこで、みんなと待っててくれ、愛依。
きっと兄ちゃんが殺すから。
なんにも悪くない愛依を、母さんを、父さんを、無慈悲に理不尽に不条理に殺した者達全てを無慈悲に、理不尽に、不条理に、全部全部殺して殺して、殺すから。
許さない。
許すものか。
絶対に許さん。
殺してやる。
貴様等が家族に与えた恐怖を、絶望を、無念を無力を苦渋を苦悶を痛みを怒りを悲しみを呪いを、那由他に倍して俺が与えてやる。
貴様らという命を、生命の輪廻から根こそぎ壊して消してやる。
――それまでは。
地這い泥を啜っても、例え世界を破壊しようとも――生き延びてやる。
死んでなるものか。
こんなところで、死んで堪るか――――!!!!!




