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「叡智の帰還」



「……確かに、あれは酷い戦いでした。軍人を目指していた自分が医学を志したのも、あの出来事がキッカケでしたよ」

「……」

「あッハーァ! 学生にしちゃフケた奴が入ってきて、しかもやけに講義への食いつきがいいもんだからァ、あいつ(・・・)も熱入れて指導してたわよねーェ!」

「ええ。先生(・・)もあの内乱を経て……人を助ける姿勢が、大きく変わったと言っていました」

「少なからずいるでしょうね。あの内乱は――あまりにも多くの人を変えた。私もその一人だというだけですわ。情を持ち過ぎても、ただ辛いのです」

「…………私はね。『病は気から』という言葉を、本当に信じているのですよ」



 バニングがギリートに視線を戻す。



「人の意志の、希望を抱き続けることの薬効やっこうを信じている。本人の生きたいという意志、生かしたいという周囲の意志が、生死の境で精神を奮い立たせると思っているんです。魔法と共に生きる我々人間だからこそ」

「そうですね。なにせ魔術師は死ににくい生き物ですし、」

「そうではなく――」

「人間とはそもそも、すべからく『生き汚い』存在ですからね」

「…………話がれましたね。ともかく、現状ではギリート・イグニトリオに施せる手はすべて施していますわ。それ以上心を砕いても、ただ辛いだけで――」



 空から地響きと共に何かが着地した。



『ッ!!?』

「んがはははははっ! ちと降り方が激しすぎるな、このスライムは! がはは!」

「むふぉーふぉふぉふぉ、ほ?」

「んん?」



 土煙が晴れ、大きなスライムにのって現れた二人を取り囲むのは救護施設を守るアルクス達。

 スライムに乗ってんできたと見えるガタイのいい男は、もう一人の小さな老人を肩に乗せるようにしながら、ガシガシと白髪頭をかいて笑ってみせた。



「がはは、スマンスマン! だが何もない位置に落ちてきたのだ、それで勘弁してくれい――ここを今、取りまとめているのは誰かな!? 責任者と話をさせてくれ!」

「おい、一体何が――――って。デ、デーミウール学長!?」

「あッハーァ! ファウプ先生もいるじゃないの!」

「むふぉーばふぉー」



 片手でふかしていた長い長いキセルをふりふりとしながら、茶色いローブを着た白髪しらが白ひげの老人、サイファス・エルジオの師であるノヴェネア・ファウプが何やら声を発する。

 それを肩に置いた偉丈夫いじょうふ――グウェルエギア大学府学長、デーミウール・シャッフェンもまた、オレンジ色のローブのそでに通した大きな手をぶんぶんとバニング、そしてミルクリーに振った。



「あッハッハーァ! 死にぞこない共がみんな生きてた!」

「がははは! それだけほおを緩ませてェ、小じわが増えるぞミルクリー!」

「もふぉふぉふぉ」

「おう、ファウプ先生もそう思うか! がははは!」

「い、いや、というか……学長、敵にグウェルエギアを壊されてから今まで、一体何を!?」

「おん? 決まっておろうが、大学の貴重な資料や論文、そして――絶対に必要になるコレを、必死で守っておったのよ!」

「ふぉ!」

『!!』



 ファウプの合図と共に、べ、とスライムが長い舌をのぞかせる。

 その上に乗っていたのは、大学の医療設備を探しに行かせたアルクスと義勇兵数名と――何やら大がかりな機械だった。

 その機械を一目見て――バニングが両目をいて機械に駆け寄る。



「これは――大学府の医療設備!?」

「すべてをかき集めるのは大変だったし、破損も少々あるようだが――魔力さえ入れてやればまだ使えるのは確認してきた――ファウプ先生に感謝せいよ! わしより先に医学科棟いがくかとうへたどり着いて、重要そうな機器はかたっぱしからこのスライムに飲み込ませておったのだからな! ――まあ、手荒すぎて破損の原因もほぼファウプ先生だがな! がははは!」

「ふぉすふぉすふぉ」

「大丈夫だ、まだ機能は生きてる――ありがとうございます、ありがとうございますファウプ先生、学長!!」

「儂はちょっと重いのを手伝っただけよ!――だがこんなにも時間がかかった。まだ助けられる命はあるか!」

「ええ、ええ――これなら辛うじて、イグニトリオ君の命だけは助けられるかも――」

呵々(かか)。『辛うじて』だの『かも』だの――一国の医学の権威が情けない言葉を吐き散らすな」

『!!?』



 全員が聞き慣れない声。


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