「音も無く、3人目」
「…………」
黒装束の――女の顔はくせの強いロングヘアで覆い隠され、全くうかがえない。
嫋やかに揺れる髪は、どこかシャノリアのような気品を感じさせる。
そして戦闘はあの実力。
武器防具の性能、初見では破りにくい独特な体術もあったとはいえ、恐らく俺では善戦できても勝てはしない。
ただの刺客――バジラノが送り込んできた手練れの一人に過ぎないのだろうか。
「アマセ君!」
「ケイ!」
「! リリスティア、ココウェル。無事だったか」
「うん。アマセ君が引き付けてくれたから…………捕まえたんだね。その人」
いまだ煙の消え切らない方向からやってきたココウェルとリリスティアが合流する。
ペトラは女の顎を強く掴み上げていたが、やがて打ち捨てるようにその手を離した。
「……まあいい。口を割らせる方法などいくらでもある。……もう一人はディノバーツが捕らえる、あと一人もガイツが捕らえる……もう終わりだよ、バジラノ。貴様等も、貴様等の国も――」
「きゃああッッ!!!?」
『!!?』
――ココウェルの悲鳴。
振り返った先の煙の中へ、彼女と共に飛び込んでいく人影。
煙がゆっくりと晴れていき――その姿は現れる。
それは見たことが無い模様が彫り込まれた仮面を付けた、もう一人の黒装束。
ほぼ同時に、ペトラと黒装束が人質の首筋にナイフをあてがった。
「嘘っ、気配が全く――」
「仮初の就縛」
「痛ぁっ――!?」
ココウェルに一番近い位置にいたリリスティアが初めて動揺らしい動揺を見せる。その間に拘束魔法を唱え、ココウェルを後ろ手に縛り上げてしまう黒装束。
あの仮面、さっきシャノリアが相手をしていた奴とは違う模様だ。
三人目の黒装束――馬鹿な、こいつは商業区にいる筈じゃ――
――背筋が、ゾワリとした。
「――貴様ッッ――」
ペトラの声が怒りと絶望を帯びる。
「――ガイツ班をどうしたッッ!!!」
『解放しろ。同胞を』
ペトラの問いには答えず――機械音声が淡々と要求と、現実を突きつける。
『人質の価値くらい理解できるだろう? どちらが優位に立っているか、解らんわけじゃあるまい』
「……!」
……そうだ。
見た目には、互いに一人の人質を取っている。
だがどこの馬の骨とも知れない女と一国の王女では、最早交渉ごとにさえならない。
だが――――そうでないとしたら?
「……渡すなよ。ペトラ」
『!』
「アマセ……!!」
……表情を見ずとも解る。
人質を渡した所で当然ココウェルは解放されず状況は悪くなるだけ、だが万が一にもココウェルに死なれる訳にはいかない。故に渡すしかない。
その苦渋が声色に満ちている。
だが違う。
分の悪い賭けではあるが――――恐らく勝てはせずとも負けはしない。
「大丈夫だ。こいつらにココウェルは殺せない」




