「黒装束の実力――①」
それを、
『!!』
刃を包むように現れた水が――――ブロンドの髪を弾ませるシャノリア・ディノバーツが、防ぐ。
「シャノリア――」
「キスキルさん!」
「はい! アマセ君、こっちへ!」
シャノリアが黒装束へ流弾の砲手を連弾、飛び退る黒装束を追撃し――
――黒装束が、消えた。
『!?』
シャノリアが一瞬動きを止める。
俺もリリスティアの障壁に守られながら、魔波感知で消えた黒装束を探すが――魔波を絶って移動しているのか、全く居場所を捕捉できない。
光学迷彩? 何にせよ――
「何でもアリか、バジラノの奴らは……!」
「こっちに集中しろよ馬鹿ッ!!」
「アマセ君っ、ここに!」
「――……」
乱れ飛ぶ矢と、何やらシャノリアが広範囲に撒き散らし始めた水から身を隠すようにして、俺とココウェル、リリスティアは上り階段の裏――いっとう分厚い壁の内側へと飛び込む。
単発の矢が地面を砕く音が再び聞こえ――
――矢の数が減ってる?
「大丈夫だと思う。もう一人も兵士長が」
「! ペトラが?」
壁際から中央を見る。
ディルス・ティアルバーによって修復されたばかりだった城内は見るも無残に破壊され、倒れた甲冑や破れた旗、瓦礫に埋め尽くされ始めている。
成程、矢は減った訳ではない。
射手に迫るペトラ・ボルテールへ射撃が集中し、射線が限定されているだけなのだ。
ペトラは軽やかな身のこなしと、鍔の部分に大きな水色の宝玉がある魔装大剣から生み出した水の竜巻などで矢を防ぎ回避し、あっという間に敵との距離を縮めていく。
「あの黒い服の仮面の人達……確かバルトビア兵士長が一気に三人を相手取ったって話だったよね」
「そうだな。同じ兵士長のペトラなら問題無いだろう」
「三人ってっ、もう一人は――」
「バジラノが動いているとガイツから連絡があったんだ。もう一人は恐らく商業区だ、ここにはいない」
「それで、どうするアマセ君。ここから……」
「ココウェル。さっき話した、王族だけの――」
軽い音と共に。
棒切れが、俺とリリスティア、ココウェルの横へと床を滑って転がってきた。
『!?』
咄嗟に見たその棒には見覚えのある、水色の宝玉。
緊張したまま動かした目線の先では――――黒装束に一方的に追い詰められる、アルクス兵士長の姿。
「兵士長……!?」
「ぐっ……!!?」
渾身の力で繰り出されたであろうペトラの右の蹴り。
しかし黒装束は妙に揺らいだ体捌きで足を右の脇腹と腕の間に挟み込み、絡み付くように右手で足を掴み引っ張り――体勢を崩したペトラの右蟀谷へ、握り込んだ人差し指と中指の第二関節を突き刺した。
「づ、ァ……!!」
体をふらつかせながらも体勢を立て直し、攻撃の手を休めないペトラ。
しかし、それら鮮やかな白打を連撃する兵士長が――――まるで蛇のような動きの黒装束に軽々翻弄され、次々と急所に打撃を受け続けていく――!
「黒装束、聞いていたよりずっと……!?」




