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「風雲急の戦場」

「…………おや、じ?」



 首を断たれた父に、マトヴェイが話しかける。



 首を断たれた瞬間、それほどノジオスは生気に満ち満ちていて――そんな彼に、マリスタは目が釘付けになっていた。



 しかし、それも一時。



 視線が合っているのにも関わらず、その目はゆっくりとマリスタを見なく(・・・)なっていき――――やがて目からは意思が完全に抜け落ち、合わせるように首元から血だまりが広がっていく。



「――――――――――、」

「な――クソッ、ノジオスがッ」

「なんてこと――わたくしとしたことが……!」



 同じく目の前で首を断たれた、くさりの男をマリスタは思い出す。



(――――ああ、そうか)



 少女はあのとき、ただ胃の中身をぶちまける他、そのときの感情を表しようがなかった。



 しかし今度は理解する。

 意志を失ってもなお離れないノジオスの視線に、理解できてしまう。



(背負っちゃったんだ、今。私は)



 その呪い(・・)の意味を。

 自分がその視線を、胃が潰れるほどに重荷に感じていたことを。



(これから一生、この視線は――私を見つめ続けるんだ)

「――『父親を始末。このまま子も片付けます』」



 仮面の下、黒装束くろしょうぞくが首筋の小さな機械を押しながらつぶやく。



『……はい。ここからです、正念場しょうねんばは』

『……動ける者は出来る限り、ヘヴンゼルじょうへ急行しろ』



 ガイツがやっとの思いでかなめの御声(ネベンス・ポート)を開き、汗の浮かぶ目元をけいれんさせながら指示を出す。



 次なる、そして真の敵との戦いに臨むために。



「ペトラ班からの応答が無かった。恐らく今まさに――バジラノが殿下でんかを狙っている」




◆    ◆




――床が砕ける。



 壁が貫かれる。



不意撃たれた()に頭部を貫かれたアルクスと義勇兵ぎゆうへいが機能停止し――ペトラ班の数人が、王城の床に次々倒れ伏していく。



「ハァッ、はぁっ、はぁっっっ……!!! あぶな、かった……!!」



 俺を突き飛ばし、頭部を狙った一矢いっしから救ってくれたココウェルが俺の膝元ひざもとで必死に息を落ち着けている。

 一本の矢にしては重すぎる連続の射出音は、もはや機関銃(マシンガン)のそれ。

 


 狙いが一定でないのが幸いしている。

 目の前で、あれだけ堅固なはずの障壁しょうへきがただの二、三発で破壊され、また何人かが機関銃の餌食えじきになっていく。



「けっ、けけけケイてめ馬鹿ッ!!! こんな石の柱なんていつまでももたねーんだからさっさと逃げ――」

「お前だけが知ってる隠れ場所は!?」

「えっ??」

「王族だけが入れる安全な場所とかだ、どこかにないのか!!」



 その上厄介(やっかい)なことに――足元にもう一人(・・・・・・・)



「うわっ!?」

「グッッ――――!!?」

「な、ッ、」



 幸運にも機関銃の掃射そうしゃから逃れた者を狙うかのように、とんでもない低姿勢で忍者のごとはしるもう一人が正確に足のけんを断ち、機動力を失わせている。



 魔力やスタミナを考えても、瞬転(ラピド)だけではあんな視認も難しい動きをし続けられるはずがない。

 機関銃、もう一人の動き。つまりこれが――



「バジラノの軍事技術というやつか――――ッッ!?」

「きゃあッ!!?」



 顔の真横で柱を矢が貫く。

 ココウェルを抱え魔法障壁まほうしょうへきを展開、タイミングを見計らう間もなく飛び出し、とにかく一度安全を確保しようと――



 ――二発着弾。

 あっさりと障壁しょうへきは破られ、



「く――――そっ、」



 三発目を避け体勢を崩した俺の足元に迫る、もう一人の白き刃。


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