「ケイ・アマセ③」
「お前にそこまで教える義理が無いな」
「まさか……凍の舞踏で、作った。氷の柱の、中?」
……そう言われてしまえば、反論する余地はまぁ、ないんだが。
機神の縛光の光の柱は、凍の舞踏で作った氷から発せられた。誤魔化しようがないだろう。
「……氷の波動で、魔法陣、描くなんて。そんなこと……どれだけ、練習したっていうの」
「それなりにすれば誰でも出来る。一週間もあったんだぞ」
「誰でも出来ないよ」
もはやどこか険さえ籠ったヴィエルナの声。
何がそんなに気に入らないんだ、こいつは。
「……君がやったことはね、ケイ。無規則な数字の、羅列。それを百桁、戦いの途中で暗唱してみせたようなもの、なんだよ?」
「それがどうした。そのくらい、一週間もあれば誰でも可能じゃないか」
「友達も、クラスメイトも、先生も遠ざけて、一週間。ずっと数字の暗記、していた――君、本当に、そういうつもりなの?」
「――――――」
――似たような視線を、どこか別の世界でも向けられた気がした。
確かあれは、テストの時だったか。
……理解した。
つまりこいつは、俺に質問をしている訳じゃないんだ。
「面倒だな。俺が奇特だと言いたいならそう言えばいいだろ」
「……私、君が測れなくて、怖い。――心配してくれる友達も、先生も。みんなと疎遠にして……そこまでして、やってたこと。まさか……数字の羅列の暗記だった、なんて。私、君が解らない」
ヴィエルナが能面のまま目を伏せる。
そもそも、なんでこいつはそんなことを知っているのか、と思わないではないが――こいつは風紀委員だ。不穏分子は風紀委員からの監視の対象になると聞く。ということは、俺もそうなっている可能性は十分にあるだろう。
大袈裟な連中だ――――とは、復讐者の身で言えたことじゃないが。
「解ってもらわなくて一切結構だ。……さて、それじゃあこんな夜中にはた迷惑な襲撃をしてくれた詫びをしてもらおうか」
「………………何をさせるつもり?」
ヴィエルナが、やたら肝の据わった静かな目で俺を見詰め、そう言う。――負けて、動きを封じられて尚こんな目が出来る、その落ち着き払った佇まいに素直に称賛を送りたい。
まあ、ともあれ――――負けた奴に何をさせるかなど、決まっている。




