「我々の傷口」
「――――わからずや、」
「だがあのドラ息子は法を犯しおった倫理を犯しおった人の道理さえ外れおった、まったく人の足ばかり引っ張りおるクソ息子よッッ!! だが愛しておるのだあいつに心のまま生きていて欲しいのだッ! であれば国を盗るしかない王になるしかない法を倫理を問われぬ地位に昇り詰めるしかないもうそれしかないッッ!!」
「あんたのそういう考えがマトヴェイを――」
「そして何よりッ!!――俺はこの国をずっと滅ぼしたかった。我が妻を奪ったリシディアがリシディア家が、憎くて憎くて仕方なかったのだッ!!」
「! 妻が……」
マリスタが止まる。
イミアが鼻を鳴らした。
「――あの時、身寄りを無くした子供なんかは後を絶ちませんでしたわ。私も……『魔女狩り』で家族全てを失いましたもの。息子を生むまで妻が生き永らえていたのはむしろ幸運だったのでは? 言っては何ですが下らないですわね。つくづく」
「そしてそう言えるのは自分がたまたま成功して生活できているからだということにも気が付けんようだな。そこの小娘は」
「……」
「ああそうよ、貴様等はどこまでも成功者の集まりだ! 貴様等が運よく努力できる環境でそれなりに努力して今の生活を手に入れた陰で、ええ? どれだけの人間が破滅したと思う? どれだけの涙が流れたと思う? どれだけの絶望が生まれたと思う!? そしてそれら人々にリシディアが何をしてくれたと思う、ええッッ!!? 何も・何も・何一つしていないッッ!! その二十年何一つッッ!!!」
「そんなものは視野が狭いお前の偏見だッ! リシディアは滅亡寸前に追いやられながらも国軍を立て直し治安を回復させ、経済の再生だって成し遂げた! だからお前だって財を築けたんじゃないのか!」
「そうだそうやって手前の身の回りだけを保身し続けた!!」
「違う! 国の為に動くことがひいては国民の為に――」
「洒落臭いわッッ! 何が国民の為だ、生き残れたのはたまたまリシディアに近かった者達ばかりだ!! そして遠い者達はことごとく捨て置かれた、そこに我が妻もいただけのことよッ! 言ってみろッ! 金もない家もない身寄りもない希望もない、明日には餓死しているかもと怯える日々を送っていた下々の者達にリシディアが何をしてくれたかをッ!!」
「それはッ……治安をっ」
「ずわはははは、随分と自信なさげだな、当然だ!! 魔女との内戦は一向に止められない他国との戦争には負け続ける国の要だった貴族の力を弱体化させようとした、挙句その動きさえ内輪揉めで中途半端に終わり魔女に王女を殺され内乱を激化させ国の軍事力は壊滅し大貴族の一角は滅び、他国に国土の一割を焼き払われ『魔女狩り』で女子どもも見境なく虐殺され、残った王族は国民を顧みぬ爺と豚!!!!!――一体どこに守る価値があるのか教えてくれっっ!!! 教えられるものならァッッ!」




