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「愛故に」



「……どうして道をみ外したのよ!?」

「………………」



 ノジオスは黙ったままで――マリスタの中のよくわからない感情だけが大きくなっていく。

 返事をしたのはガイツだった。



「……ここまで追い詰められていて、言えたことではないが……ずっと疑問だった。行き場を無くしたならず者どもを従えた程度で、アルテアスには及ばなかったとはいえそれなりに名のある貴族だったフェイルゼイン家当主の貴様が、なぜこれまでの積み上げを台無しにする愚行ぐこうに走ったのか。それもバジラノという、後々対立することが解り切っているような相手と手を組んでまで……少しも思い至らなかったのか? 血塗ちまみれになって取った国を、バジラノが横からかすめ取ってくるであろう可能性に」

「………………」



 ノジオスはしゃべらない。

 しかし土下座したまま肩で息をする男の姿が、ガイツの言葉に重みを与えていく。

 アティラスに詰められているマトヴェイをちらりと見ながら、ガイツが続ける。



「あいつは今一瞬、『俺が首謀者だ』と口走った。……このずさんな計画、元々はあのドラ息子が考えたのではないか?」

「!」

「――兵士長、じゃあこいつはあのバカの、」

「貴様ではなく、あのドラ息子が愚行ぐこうに走る理由になら、俺は心当たりがある……アレはこのクーデターより以前に、擁護ようごしようのないひとつの『重罪』を犯してプレジアを退校処分になっているからな」

「――!」



 涙のかわき切らないマリスタが目に再び怒りを灯し、マトヴェイを見る。

 マトヴェイの重罪――数多の女性を麻薬まやくけにし、暴行を加え続けたという語るもおぞましい悪魔の所業しょぎょう



「あまりにも酷い事件でアルクスにも報告が上がってきていた。アレは当然()の当たる世界では生きられなくなった……そこで強請ねだられんじゃないのか、国を(・・)。自分が王になれば、その程度のこといくらでもうやむやにできると。…………自己正当化わがままもそこまで行けば狂気だな」

「……そんな、」



 ――マリスタの感情が目まぐるしく動く。

 先まで目の奥で燃えていた怒りがしぼみ、今度はただただあきれと軽蔑けいべつに満ちていく。



「本当に、そんな……そんな馬鹿なことのためにッッ、お父さんを巻き込んで国を滅ぼすようなマネまでさせたっていうの!!!!!?」

「しっっ――知らねーよそんな話はッッ!! クソ親父が、最後の最後まで息子に全部責任おっかぶせるつもりなのかフザけてんじゃねーぞッッ!! クソ野郎オイッッ、なんとか反論してみせろよ役立たずッッ!!!」

「クソは――――クソはあんたよ、この……クソ、クソ男……!!!」



 マリスタ・アルテアスのすべてを総動員しても、マトヴェイ・フェイルゼインという悪性あくせいを正しく罵倒ばとうする言葉が見つからない。



 そしてノジオス・フェイルゼインという悲劇を、どう考えていいかも解らない。



 だが。



「……降伏して。ノジオス・フェイルゼイン。お願いよ」

『!』

「…………」

マトヴェイ(あいつ)首謀者しゅぼうしゃなんて器があるわけない。国を壊そうと提案したのはあいつでも、実際に計画を立てたりして動き回ったのはあなただと私は思う。だから、あなたはあいつ以上にこのクーデターについて知っているはずよ…………黙ってないで全部話して。あんなクズを守ることなんて――」

「だがあれが俺ッ様の愛する息子なのだッッッ!!!!」


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