「私があなたの光になるために」
ノジオスの顔から狂喜が消える。
「つくづく我ら下々の貴族をナメてくれるものだ……今に見ておれ四大貴族ッッ!!! この戦いが片付いた暁にはまずお前達を残らず粛清やる――この小娘の後を追わせ誰も彼もブチ殺してやるッッ!!!」
「ぐっ……お願いっ、」
「我らがどれだけの願いで以て、どれだけの決意で以てこの戦いへ臨んでいるか、今になってさえ大貴族の『未来』は理解できぬっ!! そんな貴様等に我らは死ぬまで抑圧され虐げられ続けろと!!? 否ァァッッ!!! 二十年前のあの時、既に貴様等の時代は終わっていたのだリシディア、ティアルバー、イグニトリオ、バリックス、ディノバーツ、アルテアスゥぅァァァァ!!!!」
「っっっ――!!!!」
――――上級魔法が勢いを減じ。
マリスタの口内に、血の味が広がっていく。
(ダメ……だめだめだめッ!! 諦めたら――)
「もう先を紡ぐなッッ!! 未来を口にするなッッ!! その栄光で我らの光ある未来を閉ざして・くれるな・頼むからッッ!!! 貴様等の終わりが我々の始まり!!! 貴様等の絶望が我々の希望ォォッッ!!! 貴様等が少しでも我らを憐れみ手を差し伸べてくれるというのなら――――もういい加減に玉座を降りろおォォォッッッ!!!」
「…………!!!」
血が口を流れる。
力が体を抜ける。
意志が、心をしぼませていく。
何故なら彼の願いは本物だから。
涙さえ流して張り上げる切なる訴えは、まぎれもなく彼なりの義勇。
この世の中を、リシディアを変えるべく、この世に生きたすべての年月を今ここに費やしている。
マリスタの二倍以上はある人生で辿り着いた、ノジオス・フェイルゼインのすべて。
そんな途方もない時間を織り込まれた決意を、たかだか十八年生きた程度の少女に受け止められよう、はずがないと――――
――――だから踏みにじられて、いいというのか?
〝どれだけ我らが貴様等にすがりチャンスを与えてきたと思うッ!!?〟
「・・・・・ッッッっぷァァ!!!!」
「!?」
少女が藍色の目を見開く。
次から次へとあふれようとする血を、すべて飲み下す。
〝その信用を・祈りを・どれだけ・どれだけ踏み躙られたと思うッ!!?〟
「……その通りよ」
「……なに」
「あんたを――あなた達をそこまで追い詰めてしまうようなリシディアを作ってしまったのは、きっと私達に責任がある」
「何――」
「だから背負うッッ!!」
「――は、」
「私は……あなた達の願いも背負ってリシディアを変えてやる!!!」
「――――――アホウ娘が口をエラそうに吹くなァッッ!!!! 大貴族最低最弱の出涸らし女の分際でェェッ、お前に何ができると――――」
「あなたを受け止められるッッ!! そして――――ここであなたに勝てるッッ!!!」
「ずァ――ッはは、ほざけェ! どうあがこうがヘボ上級魔法ひとつじゃ勝てやしないんだよクソイキりガキィが――」
「そうよね。だからっっっ、」
「――ぁ?」
「もっと――――もっともっともっともっともっともっと!!!!!!!!」
マリスタの背後に。
無数の流弾の砲手が、装填される。




