「『彼は異世界にいる』」
呪文、完全構築。
位置も合わせた。
唱えろ。
残った魔力の、全てを賭して――――!
「機神の縛光」
「!!?」
俺の体から、魔力が等分され四散していく。
分散された魔力は六つの起点へ――――凍の舞踏の氷柱の中に隠されていた六つの魔法陣へと注ぎ込まれ、氷を吹き飛ばし、光の柱となって演習スペースを満たす。
「そん――まさかこれっ」
「もう遅い」
閃光が陣の中心へ収束し――黒髪の少女を、稲妻のように乱れ飛ぶ光の縄に閉じ込める。光に締め付けられた少女が力み脱しようとするが、叶わない――最上級の捕縛魔法に、敵うわけがない。
「終わりだ。ヴィエルナ・キース」
捕縛が完了する。
魔力が安定し、荒れ狂う光が鳴りを潜め、漸く静けさが戻ってくる。
後には俺と、魔法の起点となっている六つの魔法陣、そして体をぴったり締め付ける、二重三重の光の縄を当惑した表情で見詰めるヴィエルナだけが残った。
「……うごけないんだけど」
「動けて堪るか。最上級魔法だぞ」
「…………」
よっぽど悔しいのか、それとも本当に体を動かせないことが不服なのか、能面を崩して小さく頬を膨らませるヴィエルナ。
そんな無言の抗議を一切無視し、俺は改めてヴィエルナの目を見据える。やがてヴィエルナも表情を戻し、いつもの能面で俺を見据え返した。
「……これ。まさかと、思うけど……巨大な魔物、捕らえたり。するときに、使う……えっと。確か」
「帯域魔法。一つの街ほどの大きさの敵を想定した魔法だよ」
「……在り得ない」
「可笑しなことを。それは空論に使う言葉だ。目の前の現実に使う言葉じゃない」
「おかしいの、あなただよ」
ヴィエルナが、これまで向けたことのない表情で俺を見る。
「この魔法は構築式が複雑すぎて、魔法陣を補助に用いないと、発動、出来なかったはず。事前に紙なんかに書いてないと、絶対、発動できない」
「ああ。だから暗記した」
「…………は?」
「暗記したんだよ、その魔法陣を」
「……何、言ってるの」
「こっちの台詞だ。どうしたんだお前、随分動揺してるじゃないか」
「覚えただけじゃ使えないよ、この魔法は。構築式、書く道具も、書いてある巻物もないのに。どうやって魔法陣、完成させたの?」




