「ド根性大戦――⑧」
「たまりませんわね、本当に……!!! 魔力の多くない私が放てる最高威力の攻撃ですのに……あんな紙切れ一枚でッ」
「たぁァ~~~~いまいはたいて買ったかいがあったわァァ~~~~~ッッ!!!!! 正面からくる魔法への絶対の守りだ、貴様がいくらふんばろうとも一分の炎も通さぬわァァァァッッ!!!」
「お願い通って――通ってッッ――っ、」
「!!」
イミアが力無く叫び――その声は吐血によって途切れた。
その一瞬の限界に過敏なまでに反応した二つの最上級魔法は、イミアの手元で大きく波打ち――収束を弱めて方々へと散り始める。
破れない。
(もう、イミアさんじゃノジオスには届かない……!!)
「ずわはァァァァァァーーーーッッ!!! 最後の切り札も俺ッ様には届かなァァァアいっっ!! これさえしのげば貴様等はァ――――もう打つ手なしィィィィィッッ!!!!」
「ディオデラ」の肩付近にまで身を乗り出したノジオスが、シルクハットのつばを両手で力強く目深にかぶり顔を圧迫しながら狂喜する。
マリスタの目が地上に泳ぎ――――左腕に千切れんばかりの裂傷を負い、魔力切れで血を吐いて俯いているガイツ、そして頭と白き鎧の下から血の筋をたらし、彼に肩を貸しながら自身も膝を地に屈しているアティラスの姿を捉える。
(――もう、)
「ずわはははははあっははっはは!!!! 終わりおわりおわりおわりおわりおわりィぃ!!!!」
――砂。
――炎と風の勢いが弱まっていく。
耳を焼いていた空気のうねりが少しずつなくなっていく。
常に聞こえていた誰かの声が聞こえなくなっていく。
そんな状況に、少女はすでに覚えがあった。
覚えすぎている、悔しさがあった。
〝ずわァ~~~~~~~~~ッハハハハハハハハハハハハァァァァァ!!!! 勝ちだ……我らの勝ちだァァァァァァ!!!!!〟
(……違う)
その程度の不快ではない。
もはや言葉では言い表せない程に大きく、張り詰めた、
〝お願い――〟
切なる、本能が叫ぶ、願いのような――――
〝誰か助けてッッ!!!!!!〟
――あの時何を思った。
あの時何をしたかった。
あの時――――すべてが遅すぎたあの時、マリスタ・アルテアスは何を呪った。
それはココウェル。
誰一人顧みることなく、滅亡のそのときまで愛国などおくびにも出さず好き放題し続けた怠惰の王女。
それは王やその臣下たち。
誰一人王女を助けようとせず安全な場所へ閉じこもり、自分の身だけを案じていた情けない者達。
それはプレジア・アルクス・ヘヴンゼル学園連合軍。
あれだけの粒揃いであったにもかかわらず無様に半壊し、ごくわずかしか敵の本拠にさえたどり着けなかった愚かな精鋭たち。
それは足りなさすぎる時間。
それは遠すぎる距離。
それは何の救いも与えぬ神。
だが、そんなものはついでに過ぎない。
少女が最も呪ったのは。
(本当に、)
少女が最も悔やんだのは。
(――もう、)
少女が本当に、願ったのは。
(私しか……いない!!!!!)
「――――――あ?」




