「ド根性大戦――③」
「この戦いの目的は無理に敵を倒すことではなく、戦争中の本隊が帰ってくるまで王族を守ることです。より王都に近く、また敵の戦意をくじきやすい敵の首領を叩くのは当然の判断ですよ、ケネディ先生。……それに森の方からは、もう随分音を聞いていないような気がします」
「爆発とやらの爆音も、もう結構前だもんな……生きてろよ、ザードチップの野郎……」
「……我々もこうしていられません。一刻も早く居住区の安全を確保し、各地へ応援に向かいましょう。特に――あの何やら巨大な式召喚のようなものに乗っていた敵の首領。アレが持つ今の勢いは……危険です」
◆ ◆
「――〝名無き鬼娘の前に出ろ。抱かれたその灼け爛る遺灰を以て黄泉を飲め〟」
「やめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろやめろ!!!!!」
――機神躍動。
もはや機械仕掛けであることを微塵も感じさせないほどのバネで暴れまわるノジオス・フェイルゼイン操る人型魔装機甲ブリゼクタ愛機・「ディオデラ」が、地を駆けながら詠唱を続ける王宮魔術師長イミア・ルエリケを両足で踏み潰す。
それを正面から受け止め跳ね返したのは――アルクス兵士長ガイツ・バルトビアとリシディア国軍騎士アティラス・キース。
『ずああああああッッ!!!!』
「ぬ、がォぐ――――!!!」
裂帛を以て、二人の戦士が「ディオデラ」の全体重を受け止めわずかに空へと打ち上げる。
そこに上空から、
「海神の三叉槍ゥゥゥッ!!」
たった一人残った義勇兵――――マリスタ・アルテアスが上級魔法を撃ち込む。
「バ~~~~~~カガキがァァァァァ!!!」
「ッ!?」
打ち出した三叉の水槍が弾ける。
上級魔法を打ち抜いた「ディオデラ」両腕のロケットパンチがマリスタに迫り――少女はそれを、
「水神の御心ッ!!」
空中で水泡のクッションを錬成、弾力でパンチを受け止めると同時に足場とし、瞬転で難を逃れた。
「そんなスライムで俺ッ様がとまるかァァァァ!!!」
「んきゃうっ!!」
水風船のように弾ける水泡。
マリスタは空中を乱回転しながらも体勢を立て直し、更に水泡を生み出して瞬転、「ディオデラ」の補足から脱していく。
「チョロチョロチョロチョロ小バエが――ぬおうっっ!!?」
「だああああッッ!」
魔石による障壁に守られた「ディオデラ」中央のノジオスにアティラスの鉄槌が命中――一瞬視界を奪われる。
「閃風ッッ、」
「ぐぅうア――――」
「――――陣ァッッ!!!」
吹き飛ぶ「ディオデラ」。
既に魔力切れのガイツが放った五十数撃目の風の刃が「ディオデラ」の首筋に命中――――ノジオスが自前で展開した機神の駆動魔石を守る魔法障壁だけで耐え切れず、再び体を宙に浮かせてうつぶせに倒れ伏す。
「〝戦慄かす熔けた金切をこの燃域に満たせ。其はかみのみのうた也〟」
『!!!』
――イミアの手に太陽が錬成される。
不定形の溶岩然とした魔力の塊。しかしイミアはその高エネルギー体を放たずゆっくりと手を閉じ始め――――やがて溶岩は回転しながら圧縮され、ごく小さな球体となってイミアの黒手袋をした手へと飲み込まれた。
そして、もう一重の詠唱が始まる。
「――〝背の凪を聴け。風食いの座を簒う福音に酔え。鳥群に天墜とされし地底伏す啄みの鎖神子、空仰ぐ双眼の戒めに哭き沈む嵐の神の昇天を仰げ〟」
「!!! くそ、くそ……二重詠唱だったか……!!」
(――――埒があかん。ラチがあかんッッ!!!!)
手詰まりに歯をきしませるノジオスだったが――その苦渋はすぐに狂喜へと変わる。
「ずわふひひひひひ……そうだァ。何故最初からこれを思いつかなんだ……!」
地を握りしめる「ディオデラ」。
頭によぎるのは、アルクス兵士長の片腕が再起不能になった一幕。
(魔力切れか? ともかく――あと二秒で障壁が解ける!!!)
片手で大剣を構え、「ディオデラ」の首元に飛び込んでいくガイツ。
しかしその直後機神は起き上がり、
「――――ッ兵士長ッ、」
手に握った床の一部だった沢山の瓦礫を、
「奴は居住区を狙っているッッ!!!」
「ッッ!!」
「最初からこうすればよかったのだァ――――――!!!!」
居住区へ、投擲。
家々を粉砕するに十分過ぎる威力を持った岩石群が、豪速をもって居住区へと射出された。




