「収束、そして」
ナイセストは歩き、拘束されたヴィエルナらのもとへ向かう。
三姉妹は言葉もなく、座り込んだロハザーと目を合わせた。
ロハザーがミエルを見て口を開く。
「っ……投降しろ」
「……え、」
「イミわかんだろ、アンダンプでガキだけで生き延びられるくらいならよ。――っ約束する、俺達が絶対お前らを殺させねえ。今後も面倒見てやる。だから投降しろ――頼むっ」
言い切り苦しげに顔を歪め、咳をこらえるようにしてうつむくロハザー。
判断できずにいる三女と黙っている次女の重ねられた手を、上からカシュネが握りしめた。
「……わかった。こうさんする、から…………お願い。わたしたちを殺さないで」
「……クソ、手間かけさせやがって……」
「ロハザー……っ、ナイセスト!」
ヴィエルナの隣で、ナイセストが魔力を封じる拘束に闇を流し込み不活性化、無効化する。
アドリー・マーズホーンが、まず解放された。
「ロハザーを治療しろ」
「まずは彼女らの治療が先です。幼少は誰しも魔力回路と肉体の結びつきが弱い。魔力回路による生命維持が働きにくく命を落としやすい」
「奴らは敵――」
「ではなくなりました。投降したんですから。そうでしょう?」
「――……」
「大丈夫、落ち着いて――私はアドリー・マーズホーン。学校で生物学を教えていて、その昔はリシディアで王宮魔術師も務めていた。生物医学にも多少は覚えがある――君達に応急処置を施すことができます」
三姉妹の傍らで腰を折るアドリー。
ナイセストは特に言い返すこともなく、治療の心得があるアルクスを探し、優先して解放していく。
アルクスの一人がロハザーの治療を開始した。
「改めて礼を言います、ティアルバー君。君がいなければ、この国は滅亡していた」
「怠慢も大概にしろ、いい大人が。曲がりなりにも国士であるなら、国の有事にくらい役立てとグウェルエギア大学府にも言っておけ」
「ですが私からも訊ねましょう。君が動く目的は何ですか?」
「リシディア家の守護」
「よかった。どうやら私達は仲間のようですね――ここまで姿を見せなかったということは、脱獄もすべて君の意志という訳でもないのでしょう」
「有事の特例だ。事が済めばまた在るべき場所に戻る」
「……あるべき場所、ですか」
「やっぱその……この事態に気付けてなかったのか、お前は。ナイセスト」
拘束を解かれたファレンガス・ケネディが、ミエルに取り上げられていたカウボーイハットをかぶり直しながら、いまだ上半身裸に汚れた白い半ズボンという出で立ちのナイセストを見て言う。
その横で、捕まっていた者達の足の治療も進められていく。
「ただ事でないことは察していたが……地響き、兵士共の焦り、時折聞こえる声でしか事態を察せない状況にいた。そしてよく解らない光の爆発で、牢は突然破壊された」
「映像で見た、半壊した城を作り出した爆発ですね」
「ッそうだ! 城どうなった!? あのザマじゃもう――」
「問題ない。父上がすべて片付けた」
「ち――ちうえだァ!? ディルス・ティアルバーもブタ箱から出てるってのか!?」
「ティアルバー君、それも?」
「ああ。王女殿下の指示だ。俺と同じく」
「……大胆なことしなさるなあの姫ちゃんは……!」
治療の手も足りている様子の周囲を認め、しかめ面で煙草に火をつけるファレンガス。
学生前の一服をいつもは注意するアドリーも、今回ばかりは咎めなかった。
「ありがとう」
最後の一人――ヴィエルナ・キースの拘束を、ナイセストが解く。




