「半年ぶりの目」
闇の光が、走る。
ヴィエルナの叫びが倉庫を揺らす。
ロハザーが目をこれ以上ない程に見開く。
然してナイセストの断頭は、
「殺すから……」
三番目の少女から飛び出した思いもよらない言葉と――――確かに感じた殺気に、一度停止した。
「――――、」
「ころさないで、お願い……ころすならわたしっ、ようしゃ……しないから……!!」
(…………虚勢では、ない?)
「みエ、ル……!!」
ひゅう、ひゅうと呼吸しながら、のどに穴の空いたカシュネが声を発する。
トゥトゥもせき込み血を散らしながらカシュネに同調する。
「やめて……これ以上……!」
「にげろ、ミエル……おめーが、そんなこと……!!」
床に血の痕を引きながら、カシュネとトゥトゥが守るようにミエルを抱く。
ミエルは涙を流しながら、ナイセストにおびえながら――彼を鋭く睨み続ける。
ナイセストは――大貴族は疑問にわずかに開いた目を平静に戻し、断頭の剣を再度巨大化させ、
「ナイセストッッッ!!」
「ナイセストォッッ!!」
「ティアルバー君ッッ!!」
一閃。
落ちる血。
耳をつんざくような音。
ロハザー・ハイエイトは、あらん限りの力を込めた一撃でナイセストの頬を打ち抜いた。
『――ッ!!!?』
吹き飛んだナイセストが顔から床に倒れる。
三姉妹の前に、全身の傷口から血をにじませるロハザーが立ち――顔に悲痛と激怒をみなぎらせ、叫んだ。
「何やってんだよあんたッッ!!!!」
「…………傷が開いてるぞ」
肩で息をするロハザー。
ナイセストは障壁も身体強化もなく殴られた頬を赤く腫れあがらせながら、静かに立ち上がる。
「敵か?」
「……は?」
「お前は俺に攻撃をした。敵なのか? お前は」
ナイセストの漆黒の目。
そこに映るのはただただ警戒。
殴られた衝撃、自らの行動への疑問、反省。
そんなものは、何一つ浮かんでいなかった。
〝最初から知らなかったんだ――――俺らはあの人を……ナイセスト・ティアルバーってヤツのことを何一つ〟
約半年ぶりの目。
ナイセスト・ティアルバーがヴィエルナ・キースをだるまにした時以来の、目。
それまでは毎日見ていたはずの、なのに何一つ理解の及んでいない、目――――
「……味方だよ。味方だからこそ、それは俺達がやっていいことじゃねえだろ!」
「『俺達』ではない」
「……はぁ?」
「俺は義勇兵でも騎士でもない」
「あんた自身もそういう人間じゃねえだろっつってんだよ!!」
「俺がどういう人間か……お前達は既に目の当たりにしたはずだが?」
「――――っ、」
「治療を受けろ。闇で塞いでいるとはいえ首の傷は致命傷だ、その上無茶な魔力の行使で拘束を解いたとなれば数分と――」
「約束」
「?」
「約束してくれ、このガキどもは俺らに預けるって――いや。俺らになんとかできる、からよ」
「……なら好きにしろ」
――ロハザーがその場にへたり込んだ。




