「Never.」
――――――――耳鳴りがする。
柔肌。湿り気、籠った熱。暗転。浮遊感、そして衝撃。
――と、衝撃。主に精神的な。
「~~~~ッッ!!! ば、ぁ……おま……恥ずかしくないのかよ……!」
「なに、言ってるの? 私達今、闘ってるん、だからね? 恥より一撃」
「恥ずかしそうに言いやがって、この……!」
……口にするのも馬鹿馬鹿しい一撃が、まだ脳と耳を揺らしている。
この女、事もあろうに俺を……ふとももで挟んで床に叩き付けやがった――――!
――ツ、と頭から流れた血の感覚が、俺を冷静へ引き戻す。
当然だ。英雄の鎧を纏った相手にあれだけの衝撃を与えられれば、それは頭も割れる。
――魔力から考えても限界は近い。
あと三本……急がなければ――
「よく頑張ったと、思う。でも――ここまで。終わらせる、からっ」
「ごッ――ぶァっ!!?」
蹴り起こされ、宙を飛ぶ。
回転する視界、倒れる衝撃、俺は無我夢中で起き上がり、四つ目の予定の位置まで移動する。
「凍の舞踏!」
「むだっ」
「かッ……ぁっ――!!」
波動はあっさりと避けられ、跳躍したヴィエルナに後頭部を蹴り抜かれる。英雄の鎧ってのはつくづく優秀な魔法だ。これだけタコ殴りにされてもまだ意識を保てている。
掴まれる。殴られる。頭突かれる。吹き飛ぶ。移動する。
「ペ……凍の舞踏!! ぬぐ――っ」
吹き飛ぶ。踏まれる。打ち込まれる。蹴り飛ばされ、移動する。解る。魔力が残り少ない。
「凍の舞踏――――ッッ! ガ、ハ……」
「……どうして、諦めないの? ばかの一つ覚えみたいに、凍の舞踏。ばっかり」
僅かに眉根を寄せるヴィエルナの前で、うつ伏せに倒れ込む。
鼻腔に流れ込んでくる冷気。
凍の舞踏を乱発した演習スペースは、床の殆どが凍結されていた。
武骨に立ち上がっている、大きさも様々な氷の柱。
そんなスペースの中心に近い場所で、俺はヴィエルナに背を向けて転がっている。
――あと少し前。
「もう、魔力も底、つくはず。あんまり追い込みすぎるの、良くないと思うよ。体、もう少し気遣ってあげて」
「……………………」
俺が中央ではだめだ。
もっと――もう少しだけ、前に来い。
「もう諦めて。いくら英雄の鎧、使ってても。それだけダメージ受けたら、もたない。から」
「……悪いな」
そうだ。そこで止まれ、ヴィエルナ・キース。
「諦め続けるのには、もう飽きたんだ」
そこが、中心だ。
「だから俺はもう――二度と諦めない」




