「三姉妹VSナイセスト」
貫いた手でわずかに浮いたロハザーをつかみ投げ、トゥトゥに迫ったナイセストが拳を握りしめる。
投げられ落ちたロハザーの首元に闇が走り、ココウェルの時と同様に闇がその傷を埋めて出血を止める。
鈍い音。
固められた拳が、力いっぱい少女の頬を殴り抜いた。
「ッ……男がァッ――ァッッ!?」
閃電を走らせ拳を加速させようとしたトゥトゥの背後に展開された数発の暗弾の砲手が彼女の背に次々と突き刺さる。
始まる不活性化に背をのけ反らせたトゥトゥの正面、ナイセストは無防備に突き出された少女の顔面、そのあごを――――一切の加減を加えず殴り潰す。
「べ、がッッ……!!!」
「――――ナイセスト、」
ヴィエルナの目の前で、十一歳の子どもが「最強」に一方的に殴打されていく。
あの近距離では障壁展開も意味をなさない。そして、
〝あいつは大貴族の責務を確実に果たす〟
「ティアルバー」は、敵に微塵も容赦をしない――――
「やめて……ナイセスト、やめてッ!」
『!!』
ヴィエルナの声に危険を察するロハザー、ファレンガスら。
そんな声すらかき消すほどに大きな音が、血がなぶられる少女の体から次々と、次々と発され続け――
――その音を消したのは、一本の黒煙の槍だった。
『!!?』
「――……」
トゥトゥとナイセストの間に放たれた槍。
ナイセストの目と鼻の先を通過した先の木箱を破壊した長槍は彼の視界でゆっくりと煙となって流れ――主の下へ帰還する。
倉庫出入口に現れた、隙間から黒煙を吐く鋼の鎧の騎士によって。
「あね、さま……!」
意識を取り戻したらしいミエルの声。
ナイセストは目と耳だけで彼女を捉え、ごちるようにつぶやいた。
「……憑召喚とはな」
「aaaaaaaarrrrrrrrr!!!!」
兜の隙間から少女の目をのぞかせ。
ナイセストより大きな鎧の騎士は、黒煙の槍を振り回し――彼に飛びかかった。
閃光、木片――そして無数の剣戟。
両者の間で石の床が削られはじけ飛び、窓ガラスを破壊する。
一瞬の内に四十合は交わされた長槍と双剣の応酬が、倉庫に積み上げられた木箱やコンテナを雪崩れさせ周囲を轟音に包む。
(ついてくる――子供ながらそれなりに名のある英霊を従えているか)
吹き飛ぶ木箱やコンテナが地に落ち切らない内に――その隙間を埋めるように多量の暗弾の砲手が展開される。
鎧の騎士は、
「uuuuurッッ、」
「!」
槍を手放し、手の平の上で滞空させ。
一瞬にして空間が歪むほどの魔力を充填――――黒煙の槍をナイセストへ向け投擲した。
「uuuaaaaaaaaaaa――――ッッッ!!!」
豪風隷属。
その余波ですべての暗弾の砲手が消し飛び――風を得た障害物たちが一挙に槍を避けたナイセストへと押し寄せる。




