「二姉妹VSナイセスト」
割れ散るガラス片が陽光に光る。
ヴィエルナ・キースの目が舞う煌めきの中――ナイセスト・ティアルバーの漆黒の目とすれ違う。
より精悍さを増したその目は――
「粛清の時間だ。畜生共」
――ヴィエルナが四肢を斬り飛ばされた、あのときと同じ冷酷をたたえていた。
「クソッ――ミエルッッ!!」
「――――っっ、」
ぼさぼさの長髪をした少女ミエルが自身に訪れた危機をようやく察した時――――眼球をねじ曲げるような魔波が倉庫一帯を圧した。
『ぐがあぁ――ッッ!!?』
「くっ、ァ……!!?」
「――――――ッ、ぁ」
魔波にあてられ嘔吐、泡吹き失禁しながら倒れていく悪漢達。
ミエルも焦点のずれ始めた目を見開き、気管を潰されているかのように口をぱくぱくとさせ――痙攣、一気に脱力して仰向けに地に倒れゆく。
ショートヘアの下でピアスのついた眉を怒らせたトゥトゥがナイセストを殴りつけたのはその時だった。
「テメェェッ――ミエルに何をしたッ!!」
(――この圧の中で意識を失わん子供、か)
兵装の盾を展開し、眼前のトゥトゥを無視して部屋の状況を把握するナイセスト。
一角に集められたアルクスら、次々倒れた敵。
残っているのは――眼前の子どもただ一人。
障壁がひび割れる。
「!」
「ナメてんじゃねぇぞクソ大人風情がよぉッッ!!」
奔る雷光。
トゥトゥが拳に装着したナックルダスターから飛んだ蛍光緑色の閃電が彼女の着ているロックテイストの黒ジャケットに色を与え――少女の拳を急加速させる。
(あのメリケンと服――一組の魔装具か)
「ッ!」
ナイセストの背後に現れる黒き杭。
魔力回路不活性化の能力を有する暗弾の砲手の連弾に急速後退、トゥトゥは倒れたミエルの服の襟首を引っ張りながら宙で後転し、彼女を危なげなく抱きかかえた。
(あの年であの体術――戦い慣れしている)
「ミエルしっかりしろ、おい――チッ、」
背が低いとはいえ同年齢の少女を抱えながら、しかも相手は大貴族最強の一角。
早々に正面衝突を捨てたトゥトゥは傍に落ちた悪漢のナイフを手に取り倉庫の一角へ疾走、所有属性武器を錬成し駆けてくるナイセストには目もくれず――――目を見開いた重症のロハザー・ハイエイトの首をつかみ、ミエルを自身の背後に置いて彼の首にナイフを――――深々と突き立てた。
『!!!!!』
「ロハザーッッ!!」
「ガキがテメェやりやがったな――!!!」
ヴィエルナの悲鳴。
ファレンガスの怒号。
トゥトゥはへらへらと笑いながらナイセストを見て、
「オラ止まれやこいつの首ぶった斬るぞザコ野ろ――」
ロハザーの腹部を貫いた闇の鎌剣に、自身も腹部を貫かれた。
「――かっっ、、!!?こいつ何ッッ……!!?!?」
何の、ためらいも。
そんな甘い言葉をつぶやく間も与えず、冷なる漆黒は少女を追い詰めていく。




