「か細い勝機」
「こら、暴れるなッ!」
「信用しなさいあの男をッ! 片腕であんな攻撃を二発続けて撃てる筋肉バカがこの程度でくたばるものですかッ!」
「ッ――また私だけっ……!」
砂嵐に風穴があく。
魔装大剣パルベルツで砂嵐の一部を斬り裂いたガイツが飛び出し、マリスタらのいる屋根へと着地した。
「はぁ……はぁ……!!」
「兵士長ッ! 大丈夫ですか――」
「私が闇であの障壁を破壊しますわ。それで今度こそ――」
「いえ魔術師長、この障壁のインターバルの間に私が直接――」
「遅すぎる。どちらもな」
「……どういうことです?」
ガイツの額に浮かんだ汗の玉が――
『!!!!』
「ずらァァァァァァッッッ!!!!」
――流れる。
とっさに飛んだ四人のすぐ横を、二本のロケットパンチが空気を叩き潰しながら飛び抜ける。
乗っていた屋根は破壊され――いよいよ戦場から瓦礫さえ姿を消していく。
もはや「ディオデラ」の背丈並みに立ち昇るのは濃い土煙のみ。
「ズァァァララララララララララララ!!!!!」
「くッ――――ああぁぁぁッ!」
腕を飛ばした方向に突進しながら、戻ってきた腕をメチャクチャに振り回す「ディオデラ」。
突如頭上に現れた「ディオデラ」の足に、物理障壁を展開したイミアが踏み抜かれ、地面を滑るように吹き飛ぶ。
「クソ――あんな突進を繰り返されたら、被害が別の区域まで――――ッ!!?」
「わっ!?」
「!?」
イミア、アティラス、マリスタの体が風に抱きかかえられる。
なす術もなく、あるいは身を任せて三人が集められたのは「ディオデラ」とは対面に位置する場所。
ノジオスの哄笑が響く中――――風精化を解いたガイツが三人の中心に現れた。
「はぁっ、はぁっ、はぁ……! 聞け」
「兵士長……っじゃあ今私をここまで運んだのって」
「おだまりなさい小娘ッ」
「さっきの――『遅すぎる』とはどういう意味だ? 兵士長」
「奴も必死だ。冷静さを欠き、死に物狂いで暴れ始めている――――まず、あれを完全に抑え込むことはできない。隙は作れるとしても一瞬だ」
「――そういうことですか」
「あ……障壁は壊れるまでに時間が、」
「そう。いくら上級魔法の束や闇属性魔法でも、障壁が壊れるまでにはある程度の時間がかかる。それだけの時間奴を抑え込むことも、暴れ狂い始めている奴がうなじを無防備なままこちらに向け続ける可能性もほぼない。そして――無きに等しい可能性に賭けていられるほど、こちらも体力・魔力を残していない」
片膝をつき、滝のような汗を流しながらガイツ。
頭から血を流し、片目を閉じているアティラス。
生唾を飲み込み、目を細めているイミア。
疲労から目を逸らし、ガイツの言葉に集中するのが精いっぱいのマリスタ。
「つ、つまり……どうすればいいんですか?」
「――――最後の力押し」
ガイツが一度言葉を切り、息を整えた。
「一瞬の隙を作り――ノジオス・フェイルゼインの魔法障壁を瞬時にブチ抜く一撃必殺を食らわせてやる他、今の俺達にはやりようがない」




