「こんなにも守りたい世界」
「……少なくとも私が見てきたマリスタ・アルテアスは、腰が抜けていたことなど一度もありません、殿下」
ディルスを置き、ペトラがココウェルに向けて口を開く。
「私は彼女が、この戦場において足枷になっているとは思いません」
「『枷か否か』、そんな不毛な言い争いの中にある時点で大貴族としては欠格よ。貴様等がどう論じようとあれは我らと同じ大貴族。この国を負って立ち、全てのリシディアの民草を負って行く器を備えていなければならぬ。あれにそんな器があるとは到底思えぬ――この落ちた身から見てもな」
「大貴族の機微など知らん。だがその民草にとってあの子は――確実に希望の光を灯す一助になっている。貴様等ティアルバー家よりよっぽどな」
「我らがいなければ今頃ここには白旗が翻っていたというのにか?」
「――――」
またも地鳴りが届く。
音は間違いなく商業区から。
今もその兵器とやらが――マリスタらと戦っている。
「……まあよい。確かに今は誰一人として、この国に確かな希望をもたらす存在であるとは言えぬ状況だ。救いようの無いことに四大貴族全て、な」
「……我らも同じです。私達はいまだ、この国を救えていない」
「呵々。国の在り方を語るのは、文字通り……粉骨、砕身。した後だな」
「――はい。その未来へと繋げるためになら、私達は貴方と共に戦える」
「呵々々。見せてもらうぞ――貴様等が示す希望の光がどの程度のものか」
……長々と喋っている場合か、とも思う。
しかしペトラの、ディルスの、そしてココウェルの顔を見る限り――これはきっと必要なことだったのだろう。
国の行く末。国の在り方。自分たちの在り方。
今更気付く。
こいつらに――――マリスタにとってここは、異世界ではないのだと。
◆ ◆
「ディオデラ」の駆動魔石に、魔法障壁が展開された。
『!!!』
「馬鹿共がァ――――機体が守らずとも俺ッ様が守ればいいだけの話だろうがァァァァァ!!!?」
「ずァァァァッッ!!!!」
「閃風陣ァッ!!!」
「海神の三叉槍ッッ!!!」
「風神の斬喝ッッ!!」
大嵐。
人型魔装機甲「ブリゼクタ」上空、首根うなじ部分に存在するエネルギー源、駆動魔石へ向けアティラス、ガイツ、マリスタ、イミアが四者四様に強撃を放ち――――ノジオスが展開した障壁がすべてを弾き飛ばす。
「ずわッッッッァハハハッッッ!!! ハァ、はぁ……! 貴様等もしっておろうがァ! その程度の攻撃なぞ完全防御してしまうからこそ、障壁魔法は基礎にして最強の守りであるとォォォォ!!!」
両腕を広げ天を振り仰いだ「ディオデラ」の、両肩の魔装砲が開き――――二発の岩群の王棺が太陽をも覆わんばかりの砂嵐を巻き起こす。
「きゃああああああッッ!!」
「くっ――騎士ッ!」
「はいッ!」
「閃風陣――――!!!!」
風の刃が土属性上級魔法の魔素を斬り裂き――二発が四人の下へ届くのをわずかに阻止した数瞬に、アティラスがマリスタを抱えて瞬転空でイミアと共に飛び退る。
「ッ!!!? ちょっと待って兵士長がッ」




