「残った戦い」
「やめなさいディルスッ!」
一人魔波の影響を受けていないらしいココウェルが一喝する。
ディルスは薄ら笑いを浮かべたままココウェルを一瞥、ようやくゆっくりと魔波を収めた。
呼吸が戻る。
息子に勝るとも劣らない凄まじい圧――いや、この場合凄まじいのは父と同等の魔波をあの年で放つナイセストの方だろうか。
「わたしはまだまだ未熟。わたし自身それはよく解っていて――きっとそれは、これまでわたしを見てきた彼女たちも同じなのです」
「っ、い、いえそんなことは」
「いいのですペトラ・ボルテール――わたしはまだまだ多くを学ばねばならぬ身。忌憚のない意見や指摘をもらえることが、この身にとってどれだけ幸福なことか――聡明な貴方なら察せることでしょう。ディルス・ティアルバー」
「…………出過ぎた真似をしたな。あいすまなかった」
何やら満足げな含み笑いを浮かべ、ディルスが俺とペトラ達へ向けて頭を下げる。
ペトラ達は閉口してしまい、何か言いたくとも言えない様子だった。
「……それに、実際わたしもボルテール兵士長の指摘は尤もだと思いましたから。改めて確認するまでもありませんが、ディルス――――国とは人です。皆が手を取り合い、最大多数の人々にあらん限りの幸福が訪れることを願って国は建つのです。故に国を守るため人を蔑ろにするは本末転倒……これも解っていることだと思います。国に忠誠を誓ってくれるというのなら、その力を多くの国民に差し伸べる。誓ってくれますね? ディルス・ティアルバー」
「イエス・ユア・ハイネス」
恭しく、今度はココウェルに頭を下げてみせるディルス。
先ほどまでの笑みは一瞬で影を潜め――――厳粛という言葉が似合い過ぎるその一礼は、先のペトラ班へ向けたそれとは明らかに一線を画していた。
同じ動きでよくもまあここまで敬意の違いを表現できたものだ、と内心感服するほどだ。
よし、というペトラの小さな声が聞こえた。
「ありがとうございます、殿下。では我々も戦況の報告を――」
遠くからの崩落音を、地鳴りが伝えた。
『!!』
「――致します。現在敵に制圧されているのは居住区、そちらに向かった班と連絡が取れません。現在戦闘中なのは王都外縁の森、褐色の男とトルト・ザードチップ。そして商業区ギルド『フェイルゼイン商会』商館、敵頭目のノジオス・フェイルゼインとガイツ班十五名です」
「王都外縁の森で……戦闘中だと?」
ディルスが眉を顰め、ココウェルを見る。
何らかの意図を察し、彼女が頷いた。
「……そうです。恐らくその『褐色の男』が、城を破壊した光を放った一番の実力者です」




