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「その臣従の手を広げ」




◆    ◆




「そうです。レヴェーネ・キースを救ったのも、城を修復してみせたのもディルス・ティアルバーが――そして彼の解放を進言し、わたしを命の危機から救ってみせたナイセスト・ティアルバーがいたからこそです。ですから、どうか彼らを信じてください。すべての責はわたしが負います」



 ……あっという間に半壊状態だったこの城を修復し、危篤きとく状態にあったレヴェーネとかいうふく王宮おうきゅう魔術師まじゅつしをも小康しょうこうさせた。



 それをこの男――ディルス・ティアルバーがたった一人で。



「……伊達だてではないな。大貴族現当主とは」

「……呵々(かか)、呵々! まさかそこにいるのは我が最高傑作さいこうけっさくを倒した馬の骨(・・・)か?」

「!」

「興味深い。興味深いぞ……アレ(・・)を喰らって正気でいられるはずはないのだがな」

「無駄話をしている場合か? ディルス・ティアルバー」



 油断の無い眼光でペトラ。

 ディルスが俺に向けていた目をちらりと彼女に向ける。



「いいですか、殿下。この男は『痛みの呪い』という、およそ世界最大にして最悪の魔術を作り上げ、あまつさえそれを二十年前の無限の内乱に乗じて売りさばきその傷跡を全世界に拡大させた元凶として囚われていた男です。そんな男が――」

「ですから、彼らはリシディア家には――」

「そこです。彼らがリシディア家以外を守(・・・・・・・・・・)ろうという意志を持っ(・・・・・・・・・・)ているとお思いですか(・・・・・・・・・・)?」

「!」



 ココウェルの表情がにわかに変わった――あの顔はどうやら、ペトラの言うことに思い当たる節があるらしいな。



 すぐにも抜剣ばっけんできるような殺気をみなぎらせ、ペトラが続ける。



「プレジアでの逮捕たいほの直前、この男は『法は下々を縛るものであって法を作る我々を縛ることなど無い』とまで言い放ったという傲岸不遜ごうがんふそんな男です。そんな男とその息子が、果たして土壇場で我々下々の者を守るため戦うかどうか――……私にはわかかりかねます、殿下」

「――ですが、」

「ですからお約束ください。殿下」

「――え。約束?」



 ココウェルが目をしばたかせる。



「はい。この場で――我らの目の前でディルス・ティアルバーに誓わせるのです。国民すべてを守ると。リシディア家でなくリシディア王国を守るためにこそ戦うと」

「――――」



 ココウェルが息を吸い、ディルスを見る。

 ディルスはいまだその切れ長の目をペトラに向けたままだ。



「――ディルス・ティアルバー。あなたは我が一族に絶対の忠誠を示してくれました。それでは当然――我が意をんでいただけますね? リシディア家でなくリシディア王国を……国民すべてを守ると、誓ってくれますね?」

「果て不思議な、」

『ッッ!!!?』



 ――――よく似た。



 ナイセスト・ティアルバーによく似た魔波圧が、ペトラ班をつぶす。



「いつから貴様等は殿下に――――王家リシディア家に指図できる立場になったのだ?」


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