「もっと歩きたい。」
テインツの時のように、回避のつもりで明後日の方向に身を投げる。
飛び込んだ床面に激突した衝撃にこそ襲われたものの、英雄の鎧下では微塵も痛みを感じない。
床を擦るような音。
振り返ると、そこにはやはり「音速」で移動してきたヴィエルナの姿があった。
足で床を擦った跡が、タイヤのスリップ痕のように薄黒く残っている。
……やっぱりだ。
「……猪突猛進」
再度飛び迫ろうとするヴィエルナを弾丸で牽制し、腕の力で体を持ち上げ、起き上がる。爆風を突き破り尚も肉薄してきたヴィエルナと止む無く接近戦を繰り広げる――
――が、やはりいかに身体能力が同じだろうと素人と武道家では勝負にならない。防御の隙間を縫って降り注ぐ無手の弾丸に、堪らず奴との間に弾丸を発生、爆風によって無理矢理距離をとる。ヴィエルナは――正面で、また「音速」の体勢を見せていた。
「どうなる――!」
ヴィエルナがブレる。
と同時に、奴の直線上の軌道から体を移動させ――片足だけを残した。
「!!! ッ――」
足を引っかけられて体勢を崩したヴィエルナが、空中に身を投げ出す。
残していた足にも相当の衝撃が走ったが、それよりも――やっぱりそうだ。
あの技、「音速」は――――一度跳ぶと方向転換が利かないんだ。
とすれば、ああして直線上に障害物を置いてやれば容易に超速での奇襲を防ぐことも――
――体勢を崩した筈のヴィエルナが体を捻り、演習スペースを覆う障壁に着地するのが見えた。
そんなものに気付いた時には、もう遅い。
「ガ――――!!!」
頬骨を砕かんばかりの衝撃。
空を飛ぶ感覚。
俺は「音速」のヴィエルナの拳をもろに左頬に受け、派手に吹き飛んだ。
「ぐっ――!」
きっと追撃が来る。手で床を叩くようにして体を跳ね上がらせ、
「凍の舞踏!」
案の定接近していたヴィエルナへ氷の波動を見舞ったが――彼女はあっさり跳躍、凍の舞踏の真上を掠めて俺へと――――?!?待てなんだそれh




