「ティアルバー――②」
「闇はどこにでも存在します」
「……どういう意味です?」
「光など所詮は仮初に世界を照らすもの。今この星に差す光でさえ太陽が生み出したに過ぎぬひとときのものでしかないのです。天地開闢そのときから、世界はそも闇に覆われているのが当然」
「……簡潔に言いなさい、簡潔に」
「呵々、失敬。要するに城周辺の影から破壊されたヘヴンゼル城の残骸を感知し、それを修復に用いただけでございますよ」
「な……つまりあなたは先の爆発で粉みじんに消し飛んだ建材の位置を、」
「どんな物質にも影があります。そして爆発で粉微塵だと言うのであれば、逆にそれだけを探すことも出来る。容易いことでございます」
(容易いワケないでしょう……!!!)
「さて。しかしいかに修復が完璧とはいえ、殿下の仰る光の爆発が再度起きようものなら、この城は再び半壊の憂き目でございましょう。一度近くで感知していれば対策の立てようもあったかもしれませぬが。何か覚えていらっしゃいませんかな? 殿下」
「……すみません。わたしもただ、レヴェーネに守られて助かっただけで……ですが結局、誰がどんな魔術を使ったのかさえ分からずじまいです。ですが……これほどの力を持つ爆発を放てる者など、限られています」
「……お心当たりが?」
「はい。そしてその者は恐らく――次弾もたやすく撃てるくらいの実力は持っている」
「ふむ。では一番手っ取り早いのは、やはり『王壁』の再起動でございましょうが……恐れながら、殿下は陛下より王壁の根源となる魔石の場所を」
「知っています」
「…………」
「誰も教えてくれないから、自分で探して……確認しています。場所もはっきり覚えています」
「……やはり似ておられる」
「え?」
「いえ。さて――王壁の魔石の場所は王族以外が確認できない掟。殿下ご自身で確認いただくことになりますが」
「…………」
ココウェルがナイセストに目をやる。
ナイセストは一人離れた場所で目を閉じじっとしていたが、すぐさまココウェルの視線に気付き、歩み寄ってきた。
「殿下、」
「ナイセスト。あなたに――」
「申し訳ありません。私は参ります」
「――え?」
「感知はできたのか。少々かかったな――鈍っているぞ。我らが主の御前で」
「申し訳ありません。この失態は成果で」
「ど――どこに行くというのです、あなたはまだ」
「敵の感知を終了しました。これよりそのすべてを除きます」




