「建て直す。」
ココウェルが答えた直後。
王城の砂色の床、全面が黒き魔光をあげて光り、揺れる。
「きゃあああああッッ!!?」「な、ななな、」「なに、何が起こってるの――!?」「うわあああんっっ、おかあさああああん!」「お、おいおいおい崩れるんじゃないだろうな、これ――」「何しやがったんだティアルバーめッ!!」
「いや――――皆落ち着いてください! これは……!」
「呵々、」
闇の光の中心で、ティアルバー家の当主が笑う。
「今一度ご覧あれ。眩しきヘヴンゼル城、その意匠の数々を」
地響きと光の中――――空が消えていく。
ずたずたに引き裂かれた赤く光沢さえ放つ絨毯が輝きを取り戻し。
その一筋の深紅が重厚な木製の城門へ伸び。
あちこちで城を支える柱には典雅な獣や鳥の掘り込みが甦り。
復活したロビー中央の噴水は再び滾々と水を湛え。
斬り裂かれていた軍旗がまた壁を彩り。
瓦礫だらけだった足元は照り返しが眩しい程に磨きあがり。
倒れ崩されていた壁際の鎧は再び勇猛にロビーへ立つ者を迎え。
足元に光る数々のシャンデリアは天井から再度人々を照らし。
「…………!!!!」
「――こんなものでしょうかな」
ものの、二分もしないうちに。
ヘヴンゼル城は、リシディア建国以来の姿をすっかり取り戻していた。
「うっ……そだろ、」「なおった……もうなおったの?」「ティアルバーがやったのか?」「すげぇ……!」「すげえすげえ、すごいぞコレ!」「どんな魔術だよ、城どころか調度品まですっかり元通りだぞ!?」「大英雄の噴水まで……また見ることができるなんて」「こ、これがティアルバー家の当主の力……!!!」
「呵々。少し疲れましたな――これだけ大質量の錬成も久しぶりだ」
「――待ってください!」
「うん? どうなされましたかな、殿下」
「建材はどこから持ってきたのです!」
「呵々。妙なことを仰いますな」
「ごまかさないでください! 貴方が貴方の魔力だけで土属性魔法などで生み出した建材では、いくら建て直してもあなたの意志一つで城は再び半壊状態に戻ってしまう」
「仰る通りで」
「であれば、あなたが城を修復するために用いた建材は自然界に存在する材料のはず! 城を完全修復するほどの建材を、一体どこから削り取ったのかと聞いているのです!」
「呵々、成程成程。不肖このディルス理解しましたぞ。殿下はいまだ――」
「まさかあなた――――まだ民の多く残る王都の地盤を削り取って城を修復したのではないでしょうね!?」
「――まだこのティアルバーを信用できずにいらっしゃる、ということですな。ですがそれも当然のこと。心中お察し致します、殿下」
「答えなさいっ――」
「不敬が過ぎるぞ。父上」
「呵々、そうだな。久方の大量魔力消費にいささか興が乗り過ぎてしまったやもだ、どうかお許しを――ご安心ください、殿下。城下を、」
「!」
ディルスの影から伸び出でた黒き手が城門を開く。
修復された石橋から見える城下は――
「リシディアの治めるこの地を、どうして私めが傷物にできましょうか」
――依然戦禍を残してはいるものの――それまでと変わらない姿で、そこに存在していた。
改めてココウェルが息を呑む。
(王都は削られていない……だったらこの男は、城を修復する材料を一体どうしたというの?)




