表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1166/1260

「品格」



 あくまで静かなナイセストの言葉。

 男は呵々(かか)と笑って顔を片手で覆うと、ひどくくぼんで見える両頬骨りょうほおぼねを指でなぞるように手を下ろし、ナイセストの背後にいるココウェルへと目を向けた。

 その落ちくぼんだ目が、ココウェルをさらに脅えさせる。



 ディルス・ティアルバー。



 ナイセスト・ティアルバーの父であり、ティアルバー家の現当主であり――――今なお人々を苦しめる魔術、「痛みの呪い」の開発者と目される男。



(というか、そもそもここ……何なの?)



 両扉の中、つまりディルス・ティアルバーの独房どくぼう



 そこは、何を間違っても「牢獄ろうごく」などとは言えない、暖かな灯りにあふれる研究室のような空間になっていた。



 白衣を着たディルスの背後には所狭ところせましと書物や巻物(スクロール)が詰め込まれた本棚があり、中央にある大きな長机にはココウェルには理解できない蒸留器じょうりゅうきのような実験器具や魔石の数々。

 別の壁際には寝心地の良さそうなベッドやコーヒーらしき液体の入ったポットまでが置かれている。



 そして何より――――ディルス・ティアルバーは手足にかせの一つもついていなかった。



 ココウェルがそれを見止め、目を見開く。



「ッティアルバー!! この男何かっ、」

「ご安心ください。この男は、」

「どうしてそんなことが言えますッ!? 独房を作り替え、枷もされていないということは魔力も使えるこの男が――」

「この男は、私以上のリシディアの(・・・・・・・・・・)忠臣(・・)であるからです」

「……え……?」

「……呵々々々々(かかかかか)……そう言うてくれるな。――このような場所へ、ようこそおいで下さいました。ココウェル・ミファ・リシディア殿下。お久しゅうございます」

「!(こいつも私を……)」

「呵々。『何故私を』という顔をしておいででしょうな。……存じ上げておりますとも。とてもね」

「……?」



 目の前でひざまずき、頭をれながら笑う初老の男。

 ココウェルはいよいよ困惑し、ナイセストに視線を送るが――等のナイセストは目をつぶり、ディルスと彼女の会話を邪魔すまいと立っているのみだ。



「……協力を。していただけるのですか? あなたも」

「なんなりと。ですがよろしいのですかな」

「……非常時です。あなた方を解放するのは一時的な措置であると、わたしから王には――」

「王がそれしきで、殿下をお許しになればよいのですが」

「……それはわたしの問題です。あなたが気にすることではありません」

「……御意ぎょいのままに。もはや陽の光など拝めぬ生だと自負しておりましたが……いやはや、呵々。なんと運命とは数奇なものでしょうな……かしこまりました。我らティアルバーの力、今こそ御身おんみの為存分に振るいましょう」



 ――ココウェルがつい先ほどまで捕まっていた老騎士、フェゲンと似た笑い方をする男。

 しかし感じられる印象は、その気品は、ただ歳をとっただけの老人とは一味も二味も違っていて、ひざまずいていながら威厳いげんさえ感じられる。



 「格」の差。



 ココウェルはそれを、この時初めて目にした気がした。



「さて。かような場所では音も届かぬでな……一体娑婆(しゃば)では何が起こっている。ナイセスト」

「見ればわかる。来てくれ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ