「もう1人の囚人」
「恐らく、この階段や空間そのものに魔術が仕込まれているのでしょう。転移魔法陣で替えが効かないのはそのためかと」
「そういう、ことですか……って、あれ。ティ、ティアルバーっ。前、なんだか階段が続いてないように見えますけど――ギャッ!?」
パシン、パシン、と。
弾けるような音をたて、謎の光の線が二人をスキャンするように通過し――ココウェルが指摘した階段の先の無い闇に新たなロウソクが灯り、更に下へ続く階段が現れた。
「……」
「こういう仕掛けのようですね。恐らく王族の魔力を定期的に検知しているのでしょう。急ぎましょう」
その後も階段を下り切るたびに、パシン、パシンと光が鳴っては階段が現れ続け――やがてロウソクの灯りとは違う、白色の強い光が見えてくる。
二人が並んで通るには手狭なトンネル型の出口を抜けると、そこには――
「……なにこれ」
「…………」
――人間の背を遥かに超えた、巨大な鉄の両扉が扇状に並んだだだっ広い空間があった。
両扉は壁面の各所に設置された白色の光を放つ透明な多面体の石に照らされ、扉の縁に沿う形でいくつもの小さな施錠が施されている。
扉中央には、人の体ほどもある太さの鎖を持つ巨大な錠。
その真ん中にある無色の石が――――緑色に発光している扉が、一つだけ。
「あそこです」
「待ってっ、」
ナイセストが足を止め、振り返る。
その切れ長の目に気後れしかけたココウェルだったが、それより更に大きな不安に押され、口を開く。
「……これほどまで厳重に閉じ込められている者を……本当に開放して大丈夫なのですか?」
「――殿下の疑心は尤もです」
「そもそも、どうしてあなたがここのことを知っていたのですか?」
「……私はティアルバー家の者。城の構造については、古くから伝え聞いておりました。そして何より――私とその男は、共にこの城へ収監されたからです」
「……共に? 待ってください、確かあなたは……じゃあここに収監されているのは、」
「お察しの通りです。その男の協力があれば――ヘヴンゼル城の現状を、恐らく一息に改善させることができる」
「……レヴェーネ・キースも助かるのですね? それだけの治療の腕を持っているのですね?」
「……ええ。恐らくは王国全土で、彼ほど魔術師の人体構造に精通している人物はいません」
「魔術師の、構造……?」
「いずれにせよ、賭けるしかない状況かと」
「………………、そうですね。もとよりわたしに選択肢などありません。わたしの責任において、解放しましょう。その男を」
ココウェルが両扉に歩み寄り、扉の脇に据え付けられている四角錐台型の魔石の上部に手を当てると――――中央無色の石が強く発光、扉の小さな施錠が次々と開錠され、三重の扉が相次いで開き、持ち上がり、地に沈み、
白衣を着たその人物は、ゆっくりと振り向いた。
「……呵々。誰かと思えば……これはまたなんという珍客か」
「…………」
思わずナイセストの背後に隠れそうになるココウェル。
ナイセストは前に進み出で、その人物と――――父と向き合う。
「あなたの力が必要だ。ディルス・ティアルバー」




