「闇守る王女」
◆ ◆
「と、止まれ貴様ッ!」「あいつは……特別警戒囚のナイセスト・ティアルバー」「ああなんてことっ、足がっっ」「貴様、姫様に一体何を――」
「黙りなさいッ!!!」
王女の一喝に。
半裸のナイセストに支えられ階下へ降りてきた彼女の元へ駆け寄ってきた、生き残りの王宮魔術師達は揃って閉口した。
「……ナイセスト・ティアルバーは我らの味方です! 彼は先の爆発で牢が破壊された後に、わたしの身を案じてなりふり構わず駆け付けてくれたリシディアの忠臣です。わたしは彼に命を救われました。今彼を愚弄することは絶対に許しません!」
「な……」「ティアルバーが王女を?」「そんなことあるのか?」「呪いを世界にばらまいた諸悪の根源じゃないか」「既に王女は魅惑か何かにかけられているのでは」「あの王女だしな……」
「黙りなさいと――」
「魔術師共」
『――――ッッ!!!?』
圧が。
ナイセストの魔波圧が一瞬、再び空間を駆け抜ける。
「殿下の御前でどんな態度だ? それは」
『ッ……』
貴様が言えたことか、といった目でナイセストを睨む魔術師達。
彼は全く意に介さず続ける。
「殿下」
「……ありがとう。――あなた達がわたしにどのような感情を抱いているか、解っているつもりです。ですが今は国の大事、わだかまりをとくだけの時間も余裕もありません。なので一つだけ聞かせてください。あなた達はまだこの国を救う意志を持っていますか?」
「当然です!」
国の魔術師というには幼く見える少女がいの一番に声を張る。
周囲数人の魔術師もそれに倣い、次々とココウェルに意志の宿る目を向ける。
ココウェルは深々と頭を下げた。
「っ!?」「で、殿下っ」
「ありがとうございます。この若輩の言葉を、少しでも信じてくれること……有難く思います」
「ご命令を」とつぶやいたナイセストの言葉に応じ、ココウェルが指示を飛ばす。
情報共有のち、城とけが人への応急処置、城内各所の民の安全に最優先で人員を割くことが決まり――再び、ココウェルとナイセストは二人だけになった。
ふらついたココウェルをナイセストが支える。
「休――」
「休むなどと言わないでくださいね」
「――では指示を出しやすい場所へ落ち着きましょう。どこか――」
視線をさまよわせたナイセストが、一人の男を見止めて止まる。
察知したココウェルが同じ方向を見ると――そこには見た顔の副魔術師長が倒れていた。
「……あの場所へ」
「……かしこまりました」
ナイセストに支えられ、その男を足元に見るココウェル。
副王宮魔術師長、レヴェーネ・キースは小さく体をけいれんさせながら、ローブと体を焼け焦げさせて倒れていた。
「……まだ息がある」
「しかしもう永くは」
「あなたは治療できないのですか!?」
「ここまでの重症になると。ご期待に沿えず――」
「どうにか助けられないのですか!? 空間魔術を持ち、かつこの非常時に城の人員を一人で指揮し城を守っていた優秀な人物です、きっとこの状況も彼なら――!」
「…………一つだけ、可能性があります。ですがその為に、」
「何でもしましょう。言いなさい」
「……では殿下。恐れながらもう一つだけお願いがございます」
「言えと言っているのです!」
「…………。もう一人」
ナイセストが目を細め、足元へと――その先にある地下牢獄へと視線を落とす。
「もう一人、殿下に囚人を解放していただきたいのです」




