「回ゲンVSナイセスト――②」
「そらそらそらそらァッ!!!」
長剣の間合いで展開される剣戟。
老練の剣筋は華麗にして激烈に少年へ襲い掛かり、一閃ごとに確実にナイフを刃こぼれさせていく。
ナイセストが跳んだ。
「ぬ――おっッ、」
フェゲンの長剣に乗せるようにして置かれたナイフを支点に跳躍、ナイフを剣身上で滑らせるように瞬転空、不意に間合いの内へ入られたフェゲンが紙一重首筋に迫ったナイフを躱フェゲンの背後に着地したナイセストが背後からナイフと暗弾の砲手を投擲。
「くうッッアァ!!」
「!」
暗弾はフェゲンの鎧に弾かれ消え、首に飛来したナイフを長剣の柄で弾き落としその柄を持つ両手を眼前に迫ったナイセストに上へと弾かれた。
「ッ!!!」
「――――」
両手を体の上へと弾かれたまま、両手を上にあげた状態のフェゲン。
似た体勢で、フェゲンの額にもう一振りを突き立てんとナイフを逆手に振り上げるナイセスト。
「――――カカ。怖い――」
前面に無防備をさらすフェゲンが嗤い、
「――怖いィッッ!!!」
脇腹の後ろから長剣の切っ先を突き出した。
「!!」
またもナイセストが後退する。
またも彼を仕留め損ねたフェゲンが小さく舌打ちし、同時にニカリと笑う。
「おぉおぉ。また命儲けたな若造」
「……背車刀か」
「よくご存じだ、カカカ……しかしそれだけではないぞ」
フェゲンが剣を振り回し――刃先を地面に何の抵抗もないかのように貫通させ、構える。
「裏で名にし負う『回剣のフェゲン』の異名は伊達ではないでな……!!」
「……手配者だったか」
「カカカ。『とんま姫には欠片の危害も与えぬ』だったか? はてさてそんな余裕が――お前さんにあるのかねェッ!?」
回剣のフェゲンが疾駆。
ナイセストが一本のナイフで応じる。
苛烈。
もはや隠し玉を持たぬ老騎士は本領発揮とばかりに回転剣を惜しげもなく披露し、遮るものすべてをその鋭さで斬り裂いていく――
(切味鋭い魔剣、回転剣技、耐魔加工の鎧――手の内はこれですべてか)
――それをナイフ一本でいなせているナイセストが異常なのだ。
「、」
「もらッッ――」
――壁際に追い詰められるナイセスト。
瞬転で地面近くを逃げると読んだフェゲンの袈裟懸けの一撃はしかし、その場でフェゲンの顔の高さまで跳躍し壁を蹴り老騎士の肩口を飛び越えすぐ背後に転がり回転剣の届かぬ位置ぎりぎりに着地したナイセストにより難なく回避される。
「――ッカカァ。防戦一方だのう、若造」
「『魔剣』は国の回収対象だ。どこで手に入れた?」
「カカカ、知らずともよいことよ――……それにこれは魔剣であって魔剣ではない。ちょっとした」
「模造品か。ならば破壊すれば済むな」
「カカカカ! 壁際まで追い詰められていながら破壊すると!? カカカカカッ……そこのとんまといい貴様といい、実戦経験があまりにも乏しい。そんなことだからこの老いぼれにさえ追い詰められるのよッ!」
フェゲンが三度ナイセストに迫る。
ナイセストはその一撃を今度こそ真正面から受け止めてしまい――――ナイフに長剣の刃が食い込み――
「そうか、」
ナイフが断たれて長剣がナイセストを、
「なら貴様は単なる老害か?」
――両断する前に、光の切っ先が長剣の柄にある宝石を貫いた。
「――――何、」




