「最期の叫び」
『見よ民衆よ。醜い醜いこの女の姿を』
声。
どこからか声が聞こえる。
『見えているか。あの汚らしい邪悪な笑みが。肥えに肥えた嫌らしい体が。お前達民草のことなど一顧だにしていないあの顔が。あれがこの国の本当の姿よ』
……記録石からか。
いや。
つか。
「民草のことなど一顧だにしてない」?
は?
こんな社会のゴミみてーなマヌケ面ばかり手下に集めといて、お前達は国の、民のことを考えてるってのか? 私達より?
お前らに集められんのか?
高潔な騎士達を。
志ある兵士達を。
馬鹿な王の元でも必死に働ける忠臣を。
『王都も見てみよ、このザマだ。どこもかしこも崩壊し、権威の象徴たるヘヴンゼル城さえも崩れ落ちていく……』
誇らしげに言うことかそれ。
王都に数十万を超える国民が住んでるの承知で言ってんのか。
だとしたら狂ってんぞ。
人の生活脅かしといて何を自慢げに語ってんだ?
お前らに作れんのか。これだけの街を。
二十年前の混乱にもかかわらず、ここまで治安の行き届いた国を。
確かに足並み揃わねぇ点では馬鹿ばっかだった。
でも個々人の志や仕事を見れば、それは決して――――蔑まれるような出来栄えのものばかりじゃなかった。
力を合わせることができてれば、こんなことには――――
『だが安心して見届けよ民衆よ。今日が時代の変わり目だ。絶望だらけの忌まわしき国家が終わり、希望に満ちた新たな国家が始まるのだ! ずわはははははははははァッッ!!!』
――ああ。やっぱりダメだ。
悔しい。
悔しい悔しい。
悔しいよ。
あれだけの国が、こんな風に罵倒されて終わるなんて、やっぱり――――――
◆ ◆
「……イヤだ……!」
『あ?』
「――――」
記録石に乗り、届く。
ココウェルの最期の声が、その涙が――――無様でも絶望に最後まで抗おうとする姿が、まざまざと映し出される。
「いやだ……いやだよぉぉぉっっ!!!!! こんなっ…………っこんな風にこの国を終わらせたくないッッ!! 滅ぼしたくないよおおぉぉぉぉっっ!!!!!」
「行けお前ら。祭りの興を削がせるな」
「は、はい――おいお前らッ、」
『おう!』
「はーいエロ王女ちゃん、痛い目にあいたくなかったら白旗振ろうね~ェッ!!」
「あぅっ!?」
髪を引っ張られ、バルコニーの柵から引きはがされるココウェル。
悪漢らがよってたかってココウェルを蹴りたくり、またその心を折ろうとする。
しかし折れない。
ココウェルの最期の気持ちは、その程度で折れはしない。
「わたしはずっと見てきたもんっっ!!! 頑張ってる人たち、騎士たち、兵士達、文官たち、給仕さんも魔術師も国民だって、みんな……みんな見てきたもんッッ!! みんなバラバラだったけどっ、みんなが希望を持って一生懸命だったのをずっと見てきたんだからッッ!!! 聞いてよ――――この国はまだ頑張れるッッ!!! リシディアはまだ死んでないのッッ!!! だからお願い――――誰か助けてッッ!!!!!!」
『ココウェルッッッ!!!!!! ココウェルぅッッ!!!』
『王女ォォォッッッ!!……クソォォォ――――ッッ!!!』
張り裂けんばかりの訴えに応じたマリスタとロハザーの声が記録石越しに届く。
しかし悪漢の至近距離での暴言、暴力にまみれた王女には届かない。
口を思い切り踏みつけた悪漢のヒールがココウェルの歯をへし折った。
それでも声は少女の喉を衝く。
「助けてえええッッッ!!! 誰か、お願いよッッ!!! わたしを――リシディアを助けてッ!! 誰か……だれかああぁぁぁァァァァッッッ!!!!!」
「今更ガタガタと喧しい小娘が……カカカカ――とんま姫!」
「誰か、誰かぁっっ――――ッ!!?」
「あああああああぁぁぁああああッッッ!!!?」
蹴たぐられ片目が腫れあがったココウェルが倒れたまま振り返る。
フェゲンが抱え、剣を突き刺していたのは――――壁際で震えていた給仕の一人。
「な――――なにやってんのよその人は民間、」
「おうとも。とんま姫の往生際が悪いばかりに民間人がどんどん犠牲になっておるのよ――……立場を弁えェ偽善者がァッッッ!!!!!!」
「ッッ!!?」
恫喝。
フェゲンが貫いた給仕の足から長剣を引き抜き――――今度は首筋へと剣身をあてて、ニカリと笑った。
「さあどうするね。降って湧いたポッと出の責任感で、頑張る一生懸命な国民をこれ以上危険にさらすかね!?」
「・・・・・・・・・・・・・・っっ、」
――ココウェルが立ち上がり。
涙の痕を残しながら、白旗を持ち上げる。




