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「滅びの時」




◆    ◆




「本当にいないのだな?」

「は、はい……残った部屋をしらみつぶしに探しましたが……王はいません。この城のどこにもです」

「ここにきて怠慢たいまんはよすのだぞ同志よォ。倉庫の床、庭の芝生の下……すべてくまなく調べたのだろうな?」

「し、調べました調べましたッ! だからそう、剣をふりかざすのはやめてくださいって……!」

「――ふむ」



 長剣を下げ、老騎士フェゲンは床に座り込んだココウェルと目を合わせる。



「――知らないッ! 知らない知らない知らないィッ、だからお願いやめて、もう足――足痛いの、お願い、ホントに知らないから」

「言え」

「だから知らないいいいいいいいぃぃぃいいいぃぃぃぃぃいいいぃいいいいいァァアァァァァァァァァア!!?????!?!?? やめてやめてお願い、なんでもするからもうわたしのゆび」

「言え」

「ァァァァああああああああああああなんでなんでなんでなんでなんでどうしてもうなんでしらないのにしらなァァァァァアアアアアアア?!?!ああゆびわたしわたしゆび、もうない、ゆびがないいぃ……アァ……ああああァ゛ァ……」



 指の無くなった血だまりの足を見つめ発狂、号泣し始める王女を見て、フェゲンはようやく剣を収め、その無様をわらった。



「本当に知らないようだな。しかし……あの生き汚いジジイがおめおめと玉座から逃げることもなかろう……死体も見つかってないのだったな?」

「はい、リシディア王……ケイゼン・ロド・リシディア、および親衛隊しんえいたいと思われる死体は見つかっていません。……ですが身元が分からないほど崩れた死体もあるので、もしかしたら」

「貴様の憶測などどうでもいい。無駄をしゃベるな鬱陶しい」

「は、ハイッ……!」



(……親衛隊の鎧を着た死体さえあがっていない。であれば逃げたのか、やはり。カカ……いつまでも王座にしがみついていたとはいえ、やはりもはやアレに王の器などなかったな。命惜しさに国を見捨てて早々に逃げ出しおったか。王女さえも見捨てて)



 神妙な顔で、血だまりでさめざめと泣いている指無し姫を見下ろす老騎士。

 騎士は胸いっぱいに息を吸い、ものを落とすかのようにゆっくりとすべて吐き切った。



「……終わるのだな。リシディアが。やっと。……まあ頃合いだろうさ」

「ヒぃグッ!?」

「行くぞとんま(・・・)よ。――おい。アレを用意しておけ」

「あ。あれって」

「貴様に後生ごしょう大事に運ばせてやった、文字通りのシロモノ(・・・・)よ」

「あ?……あ、ああ! あれですか! なるほど、もしかしてそういう――」

「貴様の憶測はいいと言ったろうが」

「うぐァっ!!? わ、わわわわわわかったっ! わかったから――あぎゃァっっ、」

「早く行け待たせるな」



 剣の柄で脇腹を打たれ、抜剣と同時に肩を裂かれた男が慌てて外へ消えていく。

 フェゲンはココウェルを連れ、崩れず残っている階段へと向かう。



「どんな増援が駆け付ける様子もない。城の中から新勢力が湧き出てくる様子も、本隊が戻る様子もない……もはややるべきは『宣言』のみよ。なァ、リシディアの姫よ」

「……せん、げん……?」

「おうさ。建国の宣言も王族が行った。であれば――――滅亡宣言を行うも当然、王族でなくては成らんだろうが! カカカカ……!」




◆    ◆




「おん?」

『聞こえておるか、小男こおとこよ。応答せい』



 ひとしきり笑い終え、砂風がうずまくばかりになったフェイルゼイン商会跡地。

 ノジオスはフェゲンの声を受け、記録石(ディーチェ)を操作する。

 カシュネの顔が映る画面の横に、フェゲンの顔が映った画面が投射とうしゃされた。



「今度は何の吉報だァ? 老騎士殿よ」

『気色悪い言葉遣いはよせ、カカ……先も伝えた通り、城の主力部隊は壊滅した。王は我先にと逃げ出したようだ』

『……それホントなのじーさん、出来過ぎじゃない? 仮にも在位期間最長の王なんでしょ? それが城も国民もほっぽって逃げたりする? じーさん実はもうやられてんじゃない?』

『カカカ、相変わらず口の減らぬ餓鬼ガキよ――何も問題はないぞ同志諸君どうししょくん。王は不在だが――滅亡を宣言するにふさわしい器は我が手にある』

『!』



 フェゲンの画面が切り替わる。



 ベージュを基調にした崩れかけの石造りの城、その最上階。

 馬車も通れそうな大きさの出入り口の向こうには、広大な城下を一望できる広々としたバルコニー。

 床には赤い絨毯じゅうたんが引かれ、本来は即位や婚約を国民と共に祝う喜びの場であるはずのその場所に、



 砂に汚れた全裸傷だらけ血塗ちまみれの少女が、突き飛ばされて転がった。



つなげ(・・・)。この映像を――――王都中の同志と、民草達の目に焼き付けさせよ」


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