「秒読み」
◆ ◆
「どうしてよ……どうしてお城が? 王壁はどうしたのよッ!」
「――そう……ずわはは。ずわははっははははははは! どうしても何もあるものか!」
『チビジジイ、うっさいんだけど』
かなめの御声を閉じ、ノジオスが記録石越しのカシュネの声など気にせず顔に手を当て高笑う。
「ディオデラ」も同時に同じ動作をする。
「王壁は王族にしか解けぬモノ。これまで王が頑なに解かなかったことを?・ん??・考えると???――――答えなぞ決まっておろうが。俺ッ様の部隊の一つが王女を捕らえ、王壁を解除させたのよ……今すべては終わったのだァっ!!!」
「……そんな、こと……」
「ずわはは……しかしバンターめ、祝砲にしてはデカすぎるだろうが……俺ッ様の城が半壊だぞ! ずは――」
「そんなことあるわけないッッ!!」
〝クソッッ!!! クソッッッ!!!!! クソォッッッッ!!!!!!!〟
(そんなわけないッ……あれだけ、あんなにこの国がメチャクチャにされるのに怒ってたあいつが、自分から王壁を開けたりするわけがないッ! だって、だってそれをやっちゃったら、もう王様を守るものは――――)
「――そうだ、そうだわ。まだ残ってる――きっとお城の中に親衛隊とかいたはずっ!」
「それだ一番面白いのはッ、ずふはははははッ!! 城を守っていた副王宮魔術師めらは――――なんと先の爆発で民間人を守ってほぼ全滅とさッッ!!! ずぐぶふはははははははははははははッッッ!!!! そんなだから滅ぶのだこの国はァァァァァ!!!」
「…………・・・ ・・ ・ は?」
『それホント? ガセじゃないでしょうね』
「ずはは、フェゲンからの報告さ。ガセなもの――――かァッッ!!!!!」
「おんなのこあぶないっっ!!!」
「!?」
我に返ったマリスタの眼前に――――飛来する鉄の拳。
少女を砕くに十分な威力を持ったそれが――――マリスタをかばった竜種ゼルティウィドに直撃する。
「うぅ――――――っっ!!!?」
「ど――ドラゴンッッ!!!!」
地面を引き裂きその身を埋没させながらも、拳を受け切るゼルティウィド。
そんな彼らを、
「もう終わりィ――――終わり終わりおわりなんだよ賊軍共ォッッ!!!」
もう片方の鉄の拳が、貫いた。
「ぐが――――」
「キャアアアァァァァッッッ!!!?」
轟音。
吹き飛んだマリスタ達は商館の瓦礫に突っ込み、
「ゼルテ……っ、」
「ごめん サイファス――――もう げんかいだ。どうかしぬな、」
「ゼル――――」
霧散。
竜種ゼルティウィドが召喚契約に従い――サイファスの魔力を使って在るべき場所へ還る。
往復の魔力。
崩落の中、大きな瓦礫の上で今度こそ――サイファス・エルジオは吐血して気を失った。
「っ!? ドラゴンが消え……サイファス? サイファスッ! しっかりしてよ、ねえサイ――――――ッッ!!?」
ゴ、とマリスタの額を瓦礫が打つ。
不意の一撃にマリスタの額は避け、片目を覆う如く血液が垂れ流れる。
「くっ……ぁ、う……!!」
落ちていく体。
倒れたサイファスとビージ。
応答の無いアルクス。
姿の見えないイミアとアティラス。
捕まったロハザー達。
怪我人の救護で精一杯のペトラ班。
来る気配の無い応援。
全滅した城の兵。
もういない。
ココウェルを助けに行ける人など、王都のどこにも残っていない――――
「ココウェル…………ココウェルうううぅぅぅッッッ!!!!!!!!」
「ずわァ~~~~~~~~~ッハハハハハハハハハハハハァァァァァ!!!! 勝ちだ……我らの勝ちだァァァァァァ!!!!!」
『だーからうっさいっつってんでしょ』
少女の絶叫が、感情に合わせ巻き起こった魔波が――――男の歓喜と崩落音に飲まれて消える。
消える。
消える。




