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「死屍累々」




◆    ◆




 ――――城門へ続く砂岩さがんきの橋の両脇りょうわきに存在する、城を囲うように造られているほり

対流たいりゅうのような力に巻き上げられていた瓦礫がれきがドボン、ドボンと音をたて、その水の中へと落ちていく。



 沈んでいく瓦礫の中、逆に浮かび上がってくるのは数多の死体。

 血で赤茶ににごり始めている水から、爆破の影響で四肢ししを欠損し転落してきた死体が後から、後から浮き上がってくる。



 そんな水面に、「鮫肌さめはだ」「いおり」の死体をかき分けるようにして、老騎士フェゲンは顔を出した。



「んん゛っ……ぶは、ァ、」



 断続的に降る瓦礫の雨の中、籠手こてで顔を拭って視界を鮮明にし、呼吸を整える。



「……五体満足か。とっさに飛び込んだのが奏功そうこう、いや……鎧のおかげでもあるようだな。また死に損ねたわ、カカ」



 周囲の死体、顔の焼けるような痛み、鎧の損傷具合を確認し、ごちた老騎士が上を――堀の上部にそびえる城を確認する。



 城門へ通じていた橋は既に跡形もない。

 巨大な門扉もんぴを構えていた城門さえ吹き飛んでおり――いやそれどころか、



「――なんと」



 見上げた城は、もはや城と呼ぶのをためらうほどに破壊されていた。

 まるで二口ふたくちで城を食べ尽くせる巨人に丸かじりでもされたかのように、城が半円状に無くなってしまっているのである。

 絶え間なく落ちてくる瓦礫の正体は、辛うじて建築として成り立っているもう半分の城のかみ傷(・・・)から、今もなお崩れ続けている建材けんざいだった。



王壁おうへきと共に、城の耐魔加工たいまかこうも消えていたのか? いやそんなはずは……だとすれば、先の光の攻撃が城の守りをも上回る威力いりょくを持っていたと?)



 そんなものを繰り出せる力を持った人間を、フェゲンは一人しか知らない。

 老騎士は力無く、吐き捨てるように笑った。



「カカカ……まったく手荒いことをしおる、バンターめ……どう王壁の消失を察知したやら」

「ぶがぁっ!?! がっぱ、ぁ、げほ、おェ、ごげぇッ……!」



 ザパン、と荒々しい水音をたててフェゲンの視界に現れた生者せいじゃ

 泳げないのか、余裕なくせきこみながら必死で壁にすがりついたココウェル・ミファ・リシディアは、フェゲンの姿を認めて小さく悲鳴を上げ、また少しおぼれ始めた。



「……それを悪運と言うのか、強運というべきか。カカカ」

「うぃグッ!? ――け゜っ!?」



 ココウェルのあごを雑につかみ、水中で瞬転空(アラピド)

 くうり登ったフェゲンが城の入り口に降り立つ。

 舌をみ口から血をこぼすココウェルが声もなくその場にうずくまった。



「――そうか」



 すぐさま耳に入ってきたのは、いくつもの小さな悲鳴。

 次に目に入ってきたのは入り口近くで事切れた「釣鐘つりがね」と――――レヴェーネ・キースの姿。



「このような終結か。貴様との戦いは」


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