「むかちなむかちなわたしのいのち」
王都ヘヴンゼル、ヘヴンゼル城前。
そこは既に夢の跡、ならぬ戦の跡。
攻め寄せた数多の反乱軍と数多の王国軍が戦い、そして死に絶え――住民のすべてが退避したその場所は、武器と瓦礫と事切れた者達の遺体で足の踏み場もないほど。
空には死肉に誘われた烏たちがその隊列が通り過ぎるのを今か今かと待ち、辛うじて現存する建物のへりにこぞってとまっている。
そんな残暑の中を、ココウェル・ミファ・リシディアは全裸に手枷をされた奴隷のような出で立ちで、フェゲン率いるノジオス軍に歩かされていた。
「しっかし……コノウェル・ミフォ・リシディアの野郎、」「ココウェルじゃなかったか?」「なんでもいいって。w あのアマ、マジでいい体してやがるよなww」「あの胸、尻、顔。犯されるために生まれてきましたって言ってるようなモンだよなw」「あー、ヌきてェ」「マジで記録石の一つも持っとくんだったぜ……あのフェゲンとかいうジジイが持ってねぇかな」「ばーか、少しでも機嫌損ねたら殺されるぞ」「あのジジイ、マジ何考えてっかわかんねぇからなぁ」「あれでも元は王国騎士だったらしいぜw」「あー。だから城の中に内通者とか送り込めたワケか」「まさかあの王女が城にいないとは思わなかったよな。最初は真っ先に誘拐する計画だったもんなw」「あのチビジジイ、いないと知ったときは真っ青だったぜw」「ハナが利いたんだろうぜ、本能的に。そういうの強そうじゃねぇか、あのエロ王女は」「性欲とかマジ強そうwww」「きったねー男共だなマジでw」「え? つかホントにさ、リシディア滅んだらあいつ王女じゃなくなるんだろ? 扱いとかどうなんの? 殺すの?」「さあ? 政治的にはまだまだ使い道あるんじゃねーの?」「どう考えても性的な使い道のがあるだろwwww」「あの体で政治は無理w」「騎士にも裏切られて、味方からも見放されて。確か一人でさ迷ってたところを見つかったんでしょ?」「どこに出すにも恥ずかしい、教本にさえ載らない出来損ないだからな。誰も助ける価値など見出せなかったのだろう」「かわいそー」「あの血筋がしてきたこと思えばかわいそうでもなんでもねーだろ。ホントなら王都全体を引き回してやりてェくらいだぜ……ざまあみろ」
「……………………」
涙など、とうに流れ尽くした。
感情など、とうに死に絶えた。
そう思って心を無にしていなければ、ココウェルは到底この絶望に耐えられはしなかった。
「よもや、このような形で帰ってくるとはな。数十年を務めた我が第二の故郷に。カカ」
手枷のロープを引いていた老騎士フェゲンがロープを引っ張り、ココウェルを城の前――――時折虹色がかる障壁で閉て切られた城の入口へと突き飛ばす。
「『王壁』を解け。傾国のとんま姫よ。せめて最後くらい潔く王家らしいところを見せてみよ」
「……………………」
もう自分の命は諦めた。
そう決めた。
だが、もしかすると――自分は滅んでも、国くらいは生き残れるかもしれない。
雑兵どもを見る限り、ノジオス軍とやらもほとんどは烏合の衆だ。
金でや暴力で団結しているにすぎず、ココウェルが見た限りでは何の志も持っていない。まかり間違っても国など担える器ではない者が大半なのだ。
こいつらが国を盗るなどあり得ない。
あの褐色の大男さえいなければ、治安部隊率いる第五騎士ゼガ・ラギューレや王宮魔術師長だけで防衛は十分だっただろう。
だとすれば――もしかすると皆、この状況下でも国くらいは守ろうと動いているかもしれない。
自分のような、生き恥などは、見捨てても――――王やリシディアなら、守ろうというつもりで動いてくれるかもしれない。
わたしのように、一人でほっぽりだしても誰も探しもしない、なんてことはないかもしれない。
構わない、自分などはもう構わない―「はぁ。どこまでいっても暗君か。貴様は」
「 え 、 え、」
目の前に何か転がった。
目の前に
「え?」
足の小指が、
「え……」転がった。
わたしの
「――――――――ッァぁぁぁあああああああアアアアッッ!?!?!???」




