「ハンデ」
「英雄の鎧の強化レベル、術者の基礎身体能力に大きく影響受ける、から。……きんとれ、がんばりました」
ガッツポーズをするな緊張感のない。
……いや。ハナから緊張などしていないのか。
流れるような格闘技。
息一つ乱していない立ち姿。
英雄の鎧以外、何ら魔法を使わない様子。
こいつは、ヴィエルナ・キースは――俺という凡人が見る限り――文字通り、傭兵《戦闘のプロ》なのだ。
息をするように戦いに身を置く、異世界の住人――……
「……ついでにもうひとつ聞かせてもらえるか」
……であればこそ。やはりお前は不可解だ、ヴィエルナ・キース。
それだけ傭兵らしくありながら、どうしてお前は――
「――どうしてお前は、魔法を使わない?」
「…………」
ヴィエルナが沈黙で応える。それだけで、言わんとしていることには察しがついた。
少女が僅かに、肩に力をこめた気がした。
「……私。詠唱が上手く、出来なくって。生まれつき、」
「答えなくていい」
「……?」
「悪かった。答えにくいことを聞いたな」
「……ううん」
ヴィエルナが、今度は間違いなく微笑を浮かべる。
「大丈夫、だよ。もう、気にしてない、から。……英雄の鎧だけは……すっごく、がんばったの」
「おい、それ以上は止してくれ。これから戦おうって時なのに、戦意が削がれるとお前も訓練にならないだろう」
……確かに、魔法を使う素振りをまったく見せずに無詠唱発動していた辺り、英雄の鎧に関してはよっぽど鍛錬したに違いない。
つまり、こいつは他の魔法を使えない。
それでも、これだけ強くなることが出来るというのか。
「さあ、休んでないで続きをやろう。まだ決着は」
「ううん。もう続きはないよ」
「ついてない――――は?」
――続きは無い、だと?
「解ったから。
――あなた、絶対、私に勝てないって」
「ッ!!!!!! ぁ――――っ!!?」
――――ヴィエルナが、ブレた。
叩き込まれた衝撃が、五臓六腑で重く荒れ狂う。
転倒し床に倒れ込んだ箇所に激痛が走り、平衡感覚さえ砕け散り――まともに立つこともままならない。
「はが……ァ、あぁッ……!!?」
「……言った。でしょう?」
「お……まえ今、何をッ……!?」




