「Never to be won」
「貴様どこからそんな――!?」
一打。
右の膝関節目がけて撃ち込まれた一撃は障壁を破壊こそしないものの――体にぴったりと張り付いた障壁への衝撃は機体を貫通、「ディオデラ」は膝を屈してバランスを崩す。
「ぬぉっ!? 貴ッ様――」
仰向けに倒れ行く「ディオデラ」の、ノジオスの眼前には――既に二撃目を振りかぶったアティラスの姿。
「対して強くもない小僧が――!!!」
「ッずぁぁァァァッッ!!!」
裂帛を伴い、ノジオスのいる機体の中心たる「核」へと振り下ろされた鉄塊の巨撃。
眼前に迫る脅威にノジオスはたまらず両手でこれを防ぎ切り、
「馬鹿めがこの程度で――!!!」
「詠唱完了だ。いい働きだぞ王国騎士ッ!」
「ッ!? しま――」
後続の最上級魔法への備えは、何もなくなった。
「四天滅却の火明ッッ!!」
業火。
一瞬にして周囲の景色が白熱に染まり、急速に暖められた熱気が各人の鼻腔をひりつかせる。
商業区の建造物を超えて上がった火炎は、やがて黒き煙の中に消え失せる。
術者のアルクスがかなめの御声を開いた。
『敵は動いてるか!?』
『動いてない。でもまだ魔力は感じられる』
『これでも割れてねぇってのか……!? 吸収されたような様子はあるか!?」
『いや、そんな感じは』
『魔石の位置は割れたのか』
『まだだ。だが機体前面にないのは確実だ、次は背面を――』
煙を突き破り。
噴流で強化された拳が、生身のアティラスと術者のアルクスを打つ。
『な――!!?』
「――――――、」
一瞬で姿が見えなくなる二人。
マリスタは、アティラスの飛んで行った方向の建造物が轟音と共にドミノのように倒れていくのを、ただ茫然と眺めた。
商業区を割るように。
アティラスとアルクスは、それぞれ区画の端まで吹き飛ばされていた。
「――――ばが、ァ、」
幾棟もの石の建物を突き破り、区画を隔てる鉄扉に激突しようやく停止したアティラスが、頭から大量の血を流しながら倒れる。
ぼんやりとした視界の中で、
(……何なんだ。魔力を全く感知できなかった……)
鉄の拳が、繋がれた線に引かれて戻っていくのが見えた。
「・・・ロケットパンチ・・・」
「ま……魔力をまったく介さない攻撃か……!!」
「休んでてっ、サイファス!」
「ハァ――――ハァァ……!! よくも焼き焦がしてくれたなァあのクソアルクスゥゥッッ!!」
煙を引き裂き。
ノジオスが血走った眼で、マリスタを睨みつける。
「っっ、ぁ――」
その気迫に、マリスタはただ気圧され。
その隙に、斜めに突き出た両肩の装甲が開き――――既に充填の完了した巨大な銃口が、マリスタらへ向けられた。
「もう後はない、後はないのだ――――我々にはもうこれしかないいいィィッッ!!!」
「――――――、「ゼルテ頼むッ!!」
「岩群の王棺ッッ!!」
「ガァッ――――ッ!!!」
両肩から射出された二つの土属性上級魔法に、巨大な破裂音を伴った竜種・ゼルティウィドの風の弾丸が炸裂。
両者は大きく吹き飛んだ。
「きゃあアァッ!!」
「がグ……!!!」
「ぬぅぅうっっ!」
ゼルティウィドが倒れる。
「ディオデラ」は着地した。
『発見したッ!! 見つけたぞッ、背面上部、人体で言ううなじ付近に埋め込まれた魔石がギャッ!?!?』
「うるさあァァぁァァぁあいッッッ!!!!」
体を回転させ、飛ばした両手で無茶苦茶に辺りを蹂躙する「ディオデラ」。
周囲の瓦礫は一つ残らず吹き飛び、商業区に落ち――――そして静かになる。
砂嵐しか、聞こえない。
「…………だ。だれか?』
顔をうつむかせへたり込んだまま、マリスタがかなめの御声を開く。
『――――…………』
答えない。
誰も答えない。
(…………負けて、しまう?)
――――少女の背に。
「敗北」の二文字が、急速に襲いかかる。




