「王手」
斬り口からたっぷりの鮮血を少女に浴びせかけ、悪漢が二つに割れる。
「能無しめが。探せとは言ったがひん剥けと誰が言ったか」
現れたのは、短い白髪と顔に傷のある――白き鎧を身に付けた背の高い老人。
「――騎士?」
「ああ、騎士だともよ――仕える主は貴様等ではないがな。出涸らし王女」
傷のある顔をいっぱいに広げ、老人がニカリと歯ぐきを見せる。
その男が、先の悪漢以上の悪意を持っていることを――ココウェルは本能で感じ取った。
「やめて……近寄らないでッ!!」
「血濡れの王女、国の最期を演出するに適役ではないか。カカカカ……終戦は近いぞ、小男よ……!!!」
◆ ◆
もう何人目とも知れないアルクスが「ディオデラ」の手に当たり、市街へ吹き飛んでいく。
「ずァーーーーーッハハハハハハハ!!!! どうしたどうしたァ、アルクスってのァこんな脆弱な集団だったかオイィ!!!」
「クソッ……硬すぎる……!!」
大暴れする「ディオデラ」による瓦礫の崩落を避けながら、アティラスが愚痴る。
同じように攻撃を避けながら上級魔法を放ち続けるアルクス達をものともせず、人型魔装機甲ブリゼクタは大暴れを続けていた。
「ずわははァッッ!! 終わりが近いぞ、アルクス共ォ――!!」
「ならばこれはどうだ」
「っ!?」
太陽を背に。
片翼の大剣が、風を切る。
「閃風陣」
「うっ」
上級魔法を超える威力を持つ風の斬撃が、上空よりディオデラを襲う。
それを、
「おお――ッッッッ」
『!!』
「――手で、」
ディオデラは、両手で受け止めた。
「ぬゥおおォォォォォォォァアッッッ――――」
地を砕き裂帛。
風の刃が地の砂全てを巻き上げ、フェイルゼイン商館跡地に砂嵐を巻き起こす。
そして風は、
「ァアアアアアッッッッ!!!!」
両手で商業区へと弾かれた。
「――え?」
『ッッ!!!?』
「――クソ、」
民間人のいる商業区へと、弾かれ――――着弾。
風の刃は対象を深々と切り裂き、周囲に刃の余波を斬り残して霧散。
刃に襲われた箇所は、
「――――兵士長ッッ!!!」
とっさに斬撃をその身で受け止めたガイツ・バルトビアは血塗れのまま、崩れゆく魔法障壁の中で膝を屈した。
「ガイツッ!」
「兵士長、大丈夫かッ!」
「命令を続行しろッ!! 奴の両手が及ぶ範囲に高威力の魔法を撃つなッ」
ガイツの指示が飛ぶ。
アルクス達は表情を戻し、いまだ技後の硬直から抜け出せずにいるディオデラへと向かう。
治療を任されていたアルクス、メテアとアティラスだけが近くへ駆け寄った。
「ガイツ、あんたっ」
「障壁で防いだ、腕は千切れてないっ……止血と縫合だけ頼む」
「無茶言うなあんたはもうっ、」
「無茶じゃないッ。今の状態でも魔装剣を振り回せるッ」
「だけど――」
「『奴が初めて防御した』。そうだな兵士長」
「え?」




